パリ協定やカーボンニュートラル宣言など時代の変化に伴って注目されているのが「脱炭素」です。持続可能な経営をするためには、脱炭素の取組みが欠かせません。
資金調達の鍵になる脱炭素は、これからの時代を生き抜くために大切です。この記事では「企業の脱炭素」を解説するとともに、メリットや課題、事例まで分かりやすくご紹介。自社の脱炭素に生かせるポイントが見つかるはずです。
そもそも、脱炭素とは、地球温暖化の原因である二酸化炭素の排出量をゼロにしようという取り組みです。脱炭素が進めば、地球温暖化の抑止につながります。
企業は脱炭素の取り組みとして
などを実施しています。
では、どうして、脱炭素に取り組む企業が増えたのでしょうか。その背景を解説します。
パリ協定では、産業革命後の気温上昇を、2度を十分に下回るよう抑え、1.5度まで
に制限する努力を継続することを目標としています。これによって、世界の脱炭素化が加速しました。
日本においても、2020年10月に「我が国の温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにする」ということを宣言しました。それから国内でも脱炭素社会の実現を目指す動きが高まったのです。
特に国内では2020年以降から、企業にも脱炭素が求められる風潮が強まりました。
出典:省エネ・節電効果のある脱炭素アクションのご紹介|環境省
では、企業が脱炭素に取り組むことでどのようなメリットが得られるのでしょうか。
以下に、4つのメリットをご紹介します。
企業が脱炭素を目指すことで、新たなビジネスチャンスの創出や資金調達において有利に働くというメリットがあります。金融機関は、融資先の選定基準に「地球温暖化への取組状況」を加味し、脱炭素経営を進める企業への融資条件を優遇する傾向が高まっています。
例えば、滋賀銀行は温室効果ガス排出量の削減や再生可能エネルギーの生産量または使用量等に関する目標の達成状況を加味して貸出金利が変動する「サステナビリティ・リンク・ローン」を開始しました。
さらに、投資家の中でも「脱炭素銘柄」が注目されているからです。
「脱炭素銘柄」とは、カーボンニュートラルに関連する「再生可能エネルギー」「電気自動車」などのサービスを提供する上場企業の株を意味します。脱炭素への貢献度が、将来の期待値につながるでしょう。
二つ目は、光熱費や燃料費の軽減です。脱炭素経営を実現するには「エネルギーを多く消費する非効率なプロセスの改善」「省エネ設備への更新」が欠かせません。それに伴う光熱費の燃料費のカットが大きなメリットといえるでしょう。
「再生可能エネルギーや省エネ設備に切り替えると費用が高くなるのでは?」と思うかもしれません。けれども、再エネ電力の調達においては、税制が優遇されたり融資が受けられたりと、大きな負担なく実施しているケースも増えているのです。
参考:国の再生可能エネルギー事業支援施策|資源エネルギー庁|経済産業省
脱炭素に取り組むことで、補助金などの支援を受けられます。
環境省では、「令和2年度中小企業の中長期の削減目標に向けた取組可能な対策行動の可視化モデル事業」において、設備導入のための資金計画について支援を実施。脱炭素化の動きにいち早く対応することが、中小企業のさらなる成長の実現にもつながるものと考えているようです。
自社の競争力を強化し、売上・受注を拡大するチャンスともいえます。
近年、環境意識が高い企業を中心に、サプライヤーに対して排出量の削減を求める傾向が強まりました。脱炭素経営の実践は、環境に配慮した企業に対する訴求力の向上につながるでしょう。
例えば、Appleではサプライヤーに対して再エネ電力の使用を要求。Apple向けの生産を実施している国内企業では再エネ調達が積極的に進められているのです。
このように、脱炭素の取組みは持続可能な経済成長に欠かせません。すぐに結果が得られるものではないため、できるだけ早く取り掛かることが重要といえるでしょう。
企業が脱炭素に取り組むメリットがある一方で、いくつかの課題があることも事実です。
代表的な課題は以下の3つです。
取組みを検討するためにも、3つの課題についてチェックしてみましょう。
脱炭素を目指す中で、必要なノウハウや人材が不足している企業が多く見られます。
など、「二酸化炭素をどれだけ排出しているか」を見える化した後のアクションを踏み出せずにいるケースが多いです。ノウハウや人材の蓄積にするためには、脱炭素化の推進に向けた人材育成が必要といえるでしょう。
国内の取組み状況において、上場企業と非上場企業との格差が大きいことが課題の一つです。上記のグラフを見ても、2倍以上の差があるといえます。政府の「カーボンニュートラル宣言」を受けて、本格的に取組みを始めた企業がいる一方で、思うように実施できていない場合もあるといえるでしょう。
脱炭素を踏みとどまる理由の一つは、費用がかかること。初期費用がかかることは、脱炭素経営のデメリットともいえます。
など、何をするにおいても本業とは別の経費がかかってしまうのです。そのため、資金に余裕がある上場企業の方が実施率は高いといえるでしょう。
このような問題を解決するために、政府は脱炭素に取り組む企業を資金面で支援したり、「脱炭素ポータル」で実績を紹介したりしています。
さまざま課題があるとはいえ、脱炭素に取り組み、コストカットや売上アップなど成功しているケースも増えているのは事実です。自社の今後の動向に迷っている場合は、成功事例を参考にしてみてはいかがでしょうか。
続いては、企業が取り組む脱炭素をみていきましょう。まずは、株式会社大川印刷についてです。
株式会社大川印刷は、1881年に創業した印刷会社。本業を通じた社会課題解決を実践する「ソーシャルプリンティングカンパニー®」を掲げています。
省エネ「LEDUV印刷機4」へ切り替えることで消費電力量の削減に成功。さらに、2019年本社工場全体の使用電力の再生可能エネルギー100%化も実現させました。
などを通して、再生可能なエネルギーを使った生産を続けています。「再生可能エネルギーはコストがかかるのでは?」と思った方もいるかもしれません。しかし、大川印刷は2019年度は、売上が前年度と比べると8%伸びたのにもかかわらず、エネルギーコストは8%削減。従業員の意識も大きく変わったそうです。
再生可能なエネルギー以外ではサプライチェーン排出量の削減に取り組んでいます。同業他社の印刷業者や、製本業者、配送業者等を招いてCO2排出削減に向けたセミナーを開催。普及啓発にも力を入れていました。自家発電と再生可能エネルギーの購入の両方をうまく活用した事例といえるでしょう。
出典:再生可能エネルギー100%企業になりました!|大川印刷
今後は、自家消費用太陽光発電設備の導入と購入電力の再生エネルギー化をさらに推進していくことが計画されています。
具体的な目標を打ち出すことで、消費者や投資家から注目を集めることができるので、目標設定のよきお手本といえるのではないでしょうか。
セブン&アイグループは、コンビニエンスストアに水素ステーションを展開しました。国内初のコンビニエンスストアにおける併設です。加えて水素で走る燃料電池小型トラックの導入も開始。総電力使用量とCO2排出量削減を目指しています。
さらに、環境に配慮した次世代の店舗運営を実現させるために、省エネな空調技術を導入。省エネな空調技術とは、店内の気圧をコントロールすることで、ドアから入り込む外気の侵入を抑制する仕組みで、空調効率の改善と節電効果を高められます。
セブンイレブン1店舗あたりで考えると、平均で年間約1.2トンのCO2排出量削減につながるそうです。
「店舗数が多い」という自社の強みを生かした事例といえます。強みがないという場合は、逆に自社の弱みに脱炭素につながるヒントが隠れているかもしれません。
特に面白い取組みが、中国電力の事例。家庭用ゲーム「NintendoSwitch」の人気ソフト「あつまれどうぶつの森」を活用し、地域の人たちにカーボンニュートラルの取組みをわかりやすく伝えています。
2021年12月に「2050カーボンニュートラル」をテーマとした「えねるぎあ島(じま)」を公開。「再生可能エネルギー」を活用した街と暮らしをゲーム上で体感したり、学んだりできるサービスを提供したのです。
理解が難しい内容に、遊び心をかけ合わせるという発想がとても斬新です。それが結果的に利用者の心をつかむことになったといえます。エンターテイメントと自社の取組みをコラボさせるのも、突破口の一つになるかもしれません。
出典:ゲームを通して、カーボンニュートラルの取組みを発信|環境省
企業の脱炭素は、コストが高いと思われがちですが、長期的に考えるとコスト削減や安定した資金調達につながるといえます。ただ日本では2020年以降に加速し始めた取組みであり、ノウハウや人材が足りないことが大きな課題といえるでしょう。
けれども、日本企業でも脱炭素に早い段階から取り組み、成果を出しているケースもあります。今回紹介した事例から以下のヒントにしながら、脱炭素に取り組んでいてはいかがでしょうか。
なるべく早い段階から脱炭素の推進を実現できるかどうかが、持続可能な経済成長につながります。まずは情報収集から動き出していきましょう。
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