大川印刷は、1881年に創業した横浜市の印刷会社です。
社会的課題を解決できる「ソーシャルプリンティングカンパニー」を標榜し、SDGsについても積極的な取組みを行っています。
2021年3月には、印刷産業環境優良工場表彰にて「経済産業省商務情報政策局長賞」を受賞しました。多くの表彰を受けるだけでなく、取組みにより業績が好転していることから、「中小企業によるSDGsのロールモデル」ともいわれる企業です。そんな大川印刷でのSDGs取組み6つの事例について、内容をチェックしていきましょう。
【大川印刷の6事例】
【Pick UP】「ツヅケル」が注目した大川印刷のSDGs取組みのポイント
- 中小企業によるSDGsのロールモデルとも呼ばれる取組み
- 徹底した環境負荷低減
- 特性を生かした間接的な取組み
大川印刷のSDGs取組み事例①SDGs報告(再考)会
2021年6月25日、大川印刷では有料のオンラインセミナーを実施しました。
セミナーのタイトルは「『大川、SDGsやめるってよ!?』~儲けるだけのSDGsはもういらない~ 第3回SDGs報告(再考)会」というものです。衝撃的なタイトルは話題を呼び、有料セミナーには536名が登録を行いました。
大川哲郎社長のインタビューから、SDGsのセミナーについて引用で紹介します。
「SDGs セミナー」で検索すると、「SDGsが生き残りの条件だ」「勝ち残りのSDGs」なんてタイトルがいっぱい出てきます。
生き残るというのは、誰かが死ぬということでしょ。「だれ一人取り残さない」というのがSDGsの精神なのに、それが感じられない、こんなバカなタイトルのセミナーが横行しているんですよ。
SDGsやめるという強烈なタイトルは、行動の襟を正すとの意味が込められています。セミナー終了後も反響は大きく、アーカイブの販売も行われました。
実際に、SDGsは企業の生き残り戦略としても重視されています。しかし大川哲郎社長の言葉にある通り、大前提としてSDGsは地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓ったものです。そのため企業の利益を最優先するのではなく、SDGsの目標を達成しつつ利益を追求するのが理想でしょう。
利益だけを追求して目標を達成できないのでは、SDGsウォッシュと思われるリスクもあります。
大川印刷の考え方は、SDGsへの取組みの原点とも呼べるものです。これからSDGsに取組む、あるいは目標の見直しを考えているのなら、参考となるでしょう。本来の目的を確認し、取組みが本末転倒になっていないか再考してみてはいかがでしょうか。
参照:【この人に聞きたい】オンラインセミナー「『大川、SDGsやめるってよ!?』」って本当なの!? 大川印刷 大川哲郎社長 | プリント&プロモーション
参照:大川印刷 | » 「大川、SDGsやめるってよ!?」~儲けるだけのSDGsはもういらない~第3回SDGs報告(再考)会
参照:SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
大川印刷のSDGs取組み事例②SDGsを忘れないメモ帳
2018年、大川印刷ではお年賀として「SDGsを忘れないメモ帳」を作成しました。メモ紙にはFSC森林認証紙が使われており、裏面には一つひとつSDGsの絵文字が入っています。
大川印刷では、このメモ帳を使用してワークショップを実施。また2018年3月には、国連大学で使われるシンポジウムの聴講者を対象に無料配布を行いました。「SDGsを忘れないメモ帳」は販売も行われ、日本経済新聞でも紹介されています。
この取組みは、SDSsの目標12「つくる責任つかう責任」に該当するものです。
「SDGsを忘れないメモ帳」は印刷業ならではの取組みでしょう。そのため作成自体は、どこの企業でもできるものではありません。
しかし普段からSDGsに対する意識を高めるなら、普段使いするアイテムの活用は効果的です。忙しい毎日の中で、常にSDGsを意識するのは意外と難しいもの。大川印刷の事例を参考に社内での啓発活動を行い、SDGsを浸透させていくのもおすすめです。
大川印刷のSDGs取組み事例③環境印刷で刷ろうぜ
大川印刷では「環境印刷で刷ろうぜ」をスローガンに、以下の取組みを実施しています。
- 環境負荷の少ない電気自動車やディーゼル車を使用
- 段ボールケースの回収
- 廃棄物削減のためにプラスチックコンテナで納品
- CO2ゼロ印刷
- ノンVOCインキ
- エコ用紙の使用
取組みにより、大川印刷ではこれまでで1120.68トンのCO2削減に成功しました。CO2削減の取り組みは高く評価され、大川印刷は以下の表彰を受けています。
- 第2回ジャパンSDGsアワード SDGsパートナーシップ賞(特別賞)受賞
- 第1回横浜市SDGs認証制度"Y-SDGs"最上位「Supreme」認定
- 2015年度環境大臣表彰受彰
大川印刷では、営業から納品に至るまで徹底した環境負荷低減に取組んでいます。そのうえで品質を維持しているからこそ、多くの顧客に支持されているはずです。SDGsに取組むなら、環境負荷低減と品質維持の両方を維持する方法を模索してみる必要があります。
大川印刷のSDGs取組み事例④ノンVOCインキの使用
大川印刷で使用している印刷インキは、99パーセントがノンVOCインキです。そのなかでも、油性インキには再生植物油によるインキが使われています。
VOCとは、トルエン・ベンゼンなどの揮発性有機化合物です。溶剤や燃料として広く使われているVOCは、一定レベル以上を吸入すると、喘息・気管支炎などを引き起こす原因になります。さらに人体だけでなく、植物にも悪影響を与える物質です。
ノンVOCインキなら石油系溶剤を使わないため、VOCが発生するリスクがありません。再生植物油には、給食センターなどで廃棄された大量の植物油を使用しています。
この取り組みは、パートナーシップを生かしつつ、スタッフの健康や植物を守る取組みです。SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」などに該当します。
異業種との協働は、業種を問わずSDGsを進めていくうえで重要な鍵です。VOCを使用する業種であれば、大川印刷の取組みを良いロールモデルとして生かせるでしょう。他社を巻き込んでのVOC使用削減ができないか、検討してみてはいかがでしょうか。
大川印刷のSDGs取組み事例⑤多言語版おくすり手帳
「わたしのおくすり手帳」と名付けられた多言語版おくすり手帳も、大川印刷が関係しているSDGsへの取組みの1つです。手帳は、連携パートナーである「共生のまちづくりネットワークよこはま」「ジャパンハウジング株式会社」との三者によって制作されました。
多言語版おくすり手帳には、自分自身の健康状態を記載できます。またアレルギーや食べられないものも書き入れることが可能です。手帳には以下の3種類があります。
第1弾 |
やさしい日本語・英語・中国語・韓国語 |
第2弾 |
やさしい日本語・英語・スペイン語・ベトナム語 |
第3弾 |
やさしい日本語・英語・中国語・フィリピン語 |
病院や薬局で役立つのが、おくすり手帳です。誰であっても、病気や怪我をすると不安になります。まして母国以外の場所で、言葉が思うように通じないなら不安は増すでしょう。そんな人々にとって、「わたしのおくすり手帳」は頼れるパートナーとなるはずです。
この取り組みは、SDGsの以下の目標に該当します。
- 目標3 すべての人に健康と福祉を
- 目標10 人や国の不平等をなくそう
- 目標12 つくる責任 つかう責任
- 目標17 パートナーシップで目標を達成しよう
業種によっては取組みが難しいと感じられがちなのが、目標3や目標10です。そう感じるのなら、大川印刷のように、間接的な取組みを行うのも良い方法です。難しいと諦めるのではなく、自社の特性をうまく生かして取組めないか、検討してみてはいかがでしょうか。
参照:多言語版おくすり手帳普及プロジェクト | 共生のまちづくりネットワークよこはま
大川印刷のSDGs取組み事例⑥難民の雇用
2019年、大川印刷では初めて難民認定申請者の採用を行いました。
申請をしても難民の認定を受けるのは簡単ではありません。2019年には約1万人が申請していますが、認定されたのはわずか44人です。なかには10年以上も認定を待ち続ける難民も存在します。認定を受けるまで、申請者は住居や仕事でも苦労しているのが現状です。
採用者はイスラム圏の国で生まれ育ち、部族抗争によって帰国できなくなりました。
さまざまな意見があるなかでの採用でしたが、採用者は英語力が評価され、社内でもサポートが行われています。
難民受け入れは、SDGsの目標10「人と国の不平等をなくそう」目標16「平和と公平をすべての人に」などに該当する取組みです。取組みはテレビ番組でも取材を受け、大きな注目を集めました。
2021年の日本での難民認定率は0.7パーセントでした。他国から見ると、極端に少ない数字です。制度面の問題もあり、改善を求める声が上がっています。
誰一人取り残さない社会を目指すなら、難民問題も避けて通れないでしょう。自社でSDGsに取組むのなら、参考にしたい事例の1つです。多様な人材の雇用は、企業にとって大きな武器ともなります。働き手の不足が現実的に大きな問題となっているのが日本です。難民雇用は、その問題解消につながる取組みでもあります。
参照:日本の難民認定はなぜ少ないか?-制度面の課題から|難民支援協会
参照:「誰一人取り残さない」を本気でやる “難民”を雇用し新型コロナに立ち向かう中小企業 未曾有の危機に挑戦する老舗印刷会社
中小企業のロールモデルとして評価される大川印刷
SDGsへの積極的な取組みを高く評価されているのが、環境印刷を行っている大川印刷です。別業種でも、大川印刷の取組みはヒントとして活用できるでしょう。
企業の生き残り戦略としてだけ考えると、つい自社の利益を優先しがちなもの。しかし大川社長のインタビューにあるように、SDGsを軸として本業の発展を考えていくのが理想的なスタイルです。積極的な取組みをした結果として、大川印刷の業績は好転しています。
大川印刷をロールモデルとして、SDGsを軸に本業の発展を目指せないか、ぜひ社内で検討してみましょう。