SDGs(持続可能な開発目標)の目標2では「飢餓をゼロに」を切り口に、飢餓を終わらせ、食料の安全保障や栄養不足の改善を目指し、持続可能な農業を促進していくことを目指しています。特に飢餓の原因となっている食品ロスは、わたしたちの買い物や食事にも密接に関わっている大きな社会課題です。
本記事では、SDGsの目標2で定めている8つのターゲットとポイントを解説します。また、今後わたしたちが取り組むべきこととマクドナルドと無印良品が既に取り組んでいる事例をあわせてご紹介します。ビジネスパーソンとしてSDGsへどう取り組むべきかを読み解くヒントをお伝えしていきますので、ぜひご覧ください。
SDGsの目標2「飢餓をゼロに」では、飢餓を終わらせ、食料の安全保障と栄養不足の改善を目指しています。さらに、持続可能な食料生産の必要性についても言及しています。
この目標を実現するため、8つのターゲットが設定されています。
【SDGsの目標2.飢餓をゼロにの8つのターゲット】
SDGsの目標2「飢餓をゼロに」は、主に「飢餓をなくす」と「子どもや女性の栄養不良の解消」「持続可能な食料生産」が目的です。8つのターゲットは、上記の3つの目的を実現するための具体的な対応の方向性として明記されていることを理解しておくとよいでしょう。
出典:SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
飢餓をなくすためには、食料の安全保障を実現しながら、持続可能な食料生産をしていく必要があります。
SDGsの目標2のターゲットの内容から、ビジネスパーソンとして押さえておくべき3つの要点をご紹介します。
【飢餓をなくすべき3つの理由】
次から1つずつみていきましょう。
今後、世界人口が増加することで、飢餓が深刻化することが懸念されています。国連の「世界人口推計2019年版」の調査結果では、この30年の間で人口が急増すると報告されています。
2019年現在で約77億人、2050年までには97億人に達すると予想されています。人口が増えることで、必要な食料や家畜の飼料が急増することが分かります。
すべての人が毎日十分な食事をするためには、大量の食料を持続的に生産しなければなりません。2050年には、今の1.7倍の食糧が必要になるだろうと予測されています。
日本で生活していると、飢餓はあまり身近に感じることは難しいかもしれません。
実は、2021年版「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書によると、2020年に飢えに苦しむ人の数は約8億1,100万人に達しました。特に、2019年から2020年までに約1億1800万人の飢餓人口が急増しており、目標達成からはむしろ遠のいている状態です。
億単位の人々が十分な栄養をとれず、健康でいられない現状。特に、子どもの栄養不良も深刻な問題になっています。
慢性的な栄養不良により、健やかな発達ができない5歳未満児は、1億4,920万人いるといわれています。これは、世界の5歳未満児の22%です。
栄養不足を改善し、子どもの健やかな成長を叶えるために、「飢餓をゼロに」という目標2は必要であるといえます。
世界には9人に1人が飢餓で苦しんでいる一方で、大量の食料が捨てられている現状があります。FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によると、世界では食料生産量の3分の1(約13億トン)が毎年廃棄されているそうです。
廃棄された食料は、世界の20億人分の食事に相当します。つまり、食料を必要としている人々がいるにも関わらず、必要量以上の食料が捨てられているという大きな矛盾が発生しているのです。
この矛盾を解決すれば、飢餓をなくすことは不可能ではないといえるのではないでしょうか。
以上のように、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」の8つのターゲットから、世界人口が増えても持続可能な食料生産を実現すること、深刻な栄養不調を改善することなどの目標の方向性が分かります。
出典:2019年世界食料・農業白書[THESTATEOFFOODANDAGRICULTURE2019]|FAO(国際連合食糧農業機関)
では、日本政府は飢餓をなくすためにどのような取組みをしているのでしょうか。今回は2つの事例を紹介します。
では、それぞれみていきましょう。
日本政府は、農業の近代化に力をいれています。海外では「アグリテック」といわれていますが、日本では「スマート農業」と呼ばれています。そもそも、スマート農業とは、農業と最先端技術を掛け合わせたもの。ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業のため、仕事の負荷軽減や生産性の向上などが期待できます。
日本政府のサポートもあり、「井関農機株式会社」「株式会社クボタ」といった日本の大手企業が参入。日本だけではなく、アジア、アフリカなどへの農業機械提供や、農業技術の伝達にも尽力しています。
スマート農業の拡大は、持続可能な生産を可能にするだけではなく、農家の高齢化や人手不足の解消も期待できるのではないでしょうか。
日本は農林水産省を中心に「6次産業化」を推進しています。6次産業化とは、1次産業(農林漁業)×2次産業(加工)×3次産業(販売・サービス)をしたもの。1次産業としての農林漁業に加えて、加工・製造、販売まで行うことで、今までにない付加価値を生み出す取組みです。
平成23年3月に「六次産業化・地産地消法」が施行され、法に基づく総合化事業計画の累計認定件数は順調に増加。令和3年度末時点では、約2,600件に達しました。近年では、加工・直売の取組にとどまらず、経営の多角化を目指しています。例えば、
など、多種多様な取組みも増えました。しかしながら、農林漁業従事者にとって本業ではない2次、3次産業というフィールドで既存業者に負けない結果を出さなければいけません。さらに、多額の投資が必要になるため、6次産業化の推進において数多くの課題が残っています。
一方で、コロナ禍で外出が制限されたこともあり、自宅から地方のグルメをお取り寄せする消費者が増えており、6次産業は、成長分野として期待できるのではないでしょうか。農林漁業従事者がそれぞれの強みを生かしたチャレンジをしやすい環境をさらにバックアップできるかどうかが鍵になりそうです。
飢餓をなくすためにわたしたちにできることの1つとして、「レッドカップキャンペーン」のついた商品を選択する方法があります。
レッドカップキャンペーンは、国連世界食糧計画(WFP)が実施しているプログラム。レッドカップマークがついた商品を買うと、学校給食支援につながります。
2021年8月末時点で、10年間の寄付額は「約6億円」で、約2,000万人の子どもたちに学校給食が届けられたそうです。
筆者も、レッドカップの取組みを知ってから、お菓子を購入しました。スーパーで簡単に買えるにも関わらず、子どもの笑顔につながるのはとてもすてきですよね。
さらに、個人だけではなく企業も参加できるのも特徴の一つです。レッドカップキャンペーンは協賛企業も募集していて、2011年開始以降の10年間で61社が参加しました。
自社の商品が社会貢献につながるというのは、魅力的なアピールになるといえるのではないでしょうか。さらに、消費者や投資家からの信頼残高も貯まることも期待できます。
飢餓をなくすためには、社会への影響や責任の大きい企業においても積極的に取り組むことが求められます。
マクドナルドでは、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」に基づき、飢餓対策や食育支援に取り組んでいます。
具体的には、以下の内容に取り組んでいます。
マクドナルドでは、牛の健康福祉を保護し、農家を支援する取組みも行っています。
マクドナルドの象徴であるハンバーガーの多くに使用されているのがビーフパティです。毎日大量のビーフパティを使用するからこそ、健全な牛の飼育やビーフパティの生産・調達は大きな課題でしょう。
また、他にも持続可能な食料生産を支援する活動を実施しています。
ポテトを揚げるパーム油をRSPO認証のものへ切り替えたり、水産資源保護のためにMSC認証を取得した魚を使用したり。また店舗で提供するコーヒーも全てレインフォレスト・アライアンス認証を取得した農園のコーヒー豆を使用しています。
マクドナルドでは、グローバル基準で3つの取組みを実施しています。
基準が明確になると農家も管理しやすくなります。ビーフの安全性は、そのままマクドナルドの信頼性にも直結するといます。独自の基準を設けた農家支援は、マクドナルドの事業を持続するうえでも重要だと考えられます。パートナーシップにより双方が持続できる状態を目指すのは、SDGsにおいても理想的な状況であるといえます。
マクドナルドでは、子どもたちを対象とする食育支援に取り組んでいます。
2005年、小学校での食育授業支援を目的とした「食育の時間」を開発しました。その教材を2019年春に、アニメやアプリを楽しみつつ学べる「食育の時間+(プラス)」としてリニューアルしたのです。
さらに、食育授業支援事務局を設置して学校での食育授業をサポート。未来を担う子どもたちが、食についての正しい知識と習慣を身につけるための取組みを続けています。
食事は、健やかな成長のために欠かせない要素の1つ。子どもたちが食育への正しい知識を身につけるのは、未来社会に向けた重要な取組みでしょう。さらに将来の顧客と成り得る子どもたちと、食育を通して深く関わり合うことで、自社の強い印象付けにもつながります。
写真(Patcharaporn Puttipon2465 / Shutterstock.com)
無印良品では、商品の販売だけでなく、社会の課題や環境問題の解決をしつつ、新しい価値を創造していくことに尽力しています。
具体的には、以下の内容に取り組んでいます。
無印良品によるSDGs取組み事例のなかでも、特に大きな話題となった1つが「コオロギ」を原料にした商品開発です。無印良品の運営元である良品計画と徳島大学はパートナーシップを結んで、研究を続けました。
実は、これも飢餓対策につながっています。
昆虫食に抵抗を感じる方もいるかもしれません。しかしコオロギを高級食材として扱う国や、養殖している国が増えています。
コオロギのタンパク質1キロあたりで考えると、コオロギに必要なエサの量は牛の約2割だけ。さらに温室効果ガスの排出量も牛の3パーセント程度です。
数字を見れば、環境にやさしいのが明らかですよね。
環境への負荷が少ないコオロギせんべいは話題を集めました。オンラインストアでは発売当日に売り切れ。一部店舗で販売が開始され、好評を得ています。
原材料のコオロギは微細なパウダーにされているため、見た目では分かりません。ちなみに、実際に食べてみると、エビせんべいに近い味で想像以上の美味しさでした。
生態系や環境を守りつつ持続可能な食料生産の仕組みを作るためには、固定概念を捨てて、新たな視点から食料を考えるのも大切です。
コオロギのように「日本では食べられていないが食用として養殖できるもの」に注目するのも方法の1つ。飲食業なら、コオロギに限らず、タガメやカイコなど昆虫食材を活用したメニュー開発にトライしてみてはいかがでしょうか。
参照:無印良品のコオロギせんべい ネットストアにて先行販売します
SDGsの目標2「飢餓をゼロに」では、持続的に食料生産できるような国際的な取組みが求められています。
改めて、SDGsの目標2の実現に求められている要点は、以下3点です。
自社の本業が商品開発やサービス業に関係している場合は、今回ご紹介した学校給食支援につながるレッドカップキャンペーンを取り入れるなど、直接的な取組みができるでしょう。
一方、飲食店や食品メーカーなどの場合は、昆虫食のメニュー開発にトライしてみてはいかがでしょうか。はじめは抵抗があるかもしれません。しかし、昆虫の可能性や魅力をうまくアピールすれば、新しい風が吹くのではないでしょうか。
SDGsに積極的に取り組まれている企業事例を読み解くことで、一見関わりのない飢餓をなくすことにつながるヒントが見えてくるはずです。
特に「食品ロス削減」は取組みやすい内容です。企業活動におけるサプライチェーン上の廃棄される食材を洗い出すことによって、改善できる余地が見つかるかもしれませんので、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
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