SDGs(持続可能な開発目標)の目標15は「陸の豊かさも守ろう」です。
これは、陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止するための目標です。
本記事では、SDGsの目標15で定めている12のターゲットとポイントを解説し、今後わたしたちが取り組むべきことや、大川印刷やクボタなどの企業による取組み事例も併せて紹介していきます。ビジネスパーソンとしてSDGsへの取り組み方を読み解くヒントをお伝えしていきますので、ぜひご覧ください。
SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」では、陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止するため、12のターゲットを設定しています。
【SDGsの目標15.陸の豊かさも守ろうの12のターゲット】
SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」の12のターゲットの内容で押えるべき要素は、以下の2つです。
次項から、この目標が必要とされた背景について理解していきましょう。
出典:SDGs動画シリーズ//ゴール15//陸の豊かさとは?|JICA
出典:SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
出典:地球ナビ動画(YouTube)/授業でも使える教材 | 先生・生徒のお役立ちサイト - JICA地球ひろば
陸の豊かさを守るためには、世界の陸地の約3割を占める森林とそこに暮らす生物の多様性を守る必要があります。
SDGsの目標15が求められる世界の状況を理解するには、2つのポイントを押さえておきましょう。
【陸の豊かさを守るべき2つのポイント】
それでは、次項で1つずつ解説していきます。
世界には陸地の約3割である40億ヘクタールの森林が広がっていますが、2010年〜2020年の間にかけて、世界の森林面積は全体で年平均470万ヘクタールが減少しています。
これは、東京ドーム(*1)100万個分の森林が毎年減少していることに相当します。
*1 東京ドームの建築面積は約4.7ヘクタール
1990年〜2000年に消失した森林の面積が年平均780万ヘクタールだった時に比べれば、世界中で行われる植林活動や自然増加によって、森林の純減速度は落ちています。
しかしながら、このまま森林が失われ続けてしまうと
このような影響が懸念されているため、森林の保全が叫ばれています。
出典:世界森林資源評価2020 Key findings (仮訳)|林野庁
出典:Global Forest Resources Assessment 2020
出典:持続可能な開発目標(SDGs)ー 事実と数字 | 国連広報センター
現代では、1年間に4万種もの生物が絶滅していると言われています。一度生物が絶滅してしまうと元に戻ることはありません。
また、地球上の生物が絶滅すると食物連鎖などで密接につながっていることから、生態系に大きな影響を与えます。
国際自然保護連合(IUCN)は「レッドリスト」と呼ばれる絶滅のおそれのある野生生物の種のリストを作成し、情報を公開しています。
環境省が発表した「環境省レッドリスト2020」によれば、「二ホンオオカミ(哺乳類)」や「シマハヤブサ(鳥類)」などが、国内において既に絶滅したと認定されています。
世界には3,000万種の生物が存在していると言われており、そのうち175万種がこれまでに確認されていますが、まだ未知の生物が多いのも事実です。
身近に感じない話という方も多いと思いますが、生物多様性を守り解明していくことは、実はわたしたちの暮らしに大きな恩恵を与えてくれる可能性を秘めています。
わたしたちが使用している医薬品には、5万〜7万種もの植物からもたらされた物質が貢献しています。未発見の生物の解明が進めば、これまで治療できなかった病気に対する医薬品の開発が進み、救える命が増える可能性も広がります。
しかし、現在の生物多様性が損なわれつつある状態は、人類の未来の可能性をも失っていると言えるでしょう。
こうした状況を踏まえ、SDGsの目標15では生物多様性を守ることが掲げられています。
出典:UNESCO: 生物多様性の保全を学ぶ|国連広報センター (UNIC Tokyo)
出典:生物多様性とは?その重要性と保全について |WWFジャパン
日本政府が陸の豊かさを守るために行っている取組みの1つが、2005年に施行された外来生物法です。
外来種は移動先で繁殖し、生態系や人間の生命、農林水産業などに被害を与えます。
たとえば、孤島であった小笠原諸島は、かつて独自の固定生物が多く生息していました。しかし小型トカゲ・グリーンアノールが入り込み、固定種を捕食して定着したのです。その結果として、絶滅あるいは絶滅の危機に瀕している昆虫が多数いるとされています。
同様の被害を防ぐ目的を持つのが、外来生物法です。現在は以下のような生物法が、規制の対象となっています。
【外来生物法で規制されている生物の例】
緊急に対策する種 |
タイワンザル・アライグマなど50種 |
重点的に対策する種 |
ハクビシン・ドブネズミなど110種 |
対策が必要な種 |
リスザル・アフリカツメガエルなど150種 |
管理が必要な産業上重要な種 |
ニジマス・ブラウントラウトなど18種 |
侵入を予防する種 |
ジャワマングース・ヒアリなど26種 |
定着を予防する種 |
フクロギツネ・ワニガメなど75種 |
アライグマやハクビシンは、害獣としても一般的に知られている生き物です。家や農作物に被害を受けた経験を持つ人も多いでしょう。
「入れない・捨てない・拡げない」が外来種被害予防三原則です。飼育している生き物は、逃がさない・放さないといった個人の取組みも必要不可欠。生態系・人間・豊かさを守るためには、適切な対策が必要です。また政府が法律で規制するだけでなく、国民にも知識と理解が求められます。
参照:特定外来生物等一覧 | 日本の外来種対策 | 外来生物法
参照:どんな法律なの? | 日本の外来種対策 | 外来生物法
参照:生態系被害防止外来種リスト|日本の外来種対策 |外来種問題を考える
陸の豊かさを守るためにわたしたちにできることの1つに、「FSC認証マーク」のついた製品を選択する方法があります。
FSC認証は、適切かつ持続可能な森林経営をしている森林を認証する、国際的な認証制度です。
FSC認証は、適切に管理されている森林に対する「FM認証」と、そのFM認証を受けた森林からの木材・木材製品であることを認証する「CoC認証」の2種類の認証制度から成り立っています。
最終的にFSC認証製品として認められるのは、生産・加工・流通に関わる要件をクリアした認証事業者によって届けられた製品だけです。
FSC認証製品は、実はわたしたちの身近なところで見かけることができるのをご存じでしょうか。
例えば、紙パック飲料。
キリンビバレッジ株式会社の「トロピカーナ100%」シリーズの紙パック飲料には、FSC認証マークがついています。
社会全体で森林を保全していくためには、企業努力とあわせてわたしたち消費者の意識改革も必要になるでしょう。
企業の広報担当者は、自社商品のブランディングだけではなく「環境に配慮された商品を選ぶことは素晴らしい」というエシカルな価値観の醸成や、「環境意識の高い消費者層」へのアプローチも検討すると、今後のマーケットのニーズに応えられるかもしれません。
陸の豊かさを守るためには、社会的な影響力の大きい企業活動や団体の取り組みが必要不可欠です。
実際に企業が取組んでいる事例について紹介します。
それぞれについて内容を確認していきましょう。
株式会社大川印刷(以下、大川印刷)では、SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」に基づき、森林に配慮した印刷事業に取り組んでいます。
大川印刷では、自社の印刷業に対して「環境印刷」という方向性を打ち出し、具体的に以下の3つの取り組みが評価されています。
これらの取り組みが評価され、持続可能な開発目標(SDGs)推進本部が行う第2回「ジャパンSDGsアワード」を受賞。
環境省が発行している「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」にも、大川印刷の取り組み事例が掲載されています。
大川印刷は「ソーシャルプリンティングカンパニー®」として、企画から配送まで一貫して環境負荷の少ない企業活動を続けてきました。
森林保全や持続可能な調達など、積極的にSDGsに取り組んだ結果、社会的な認知やブランディングに成功しています。
対外的な発信力を高めるSDGsアワードへの応募・工場見学などでのSDGsの取り組み内容の発信や、WEBサイトを活用した積極的な情報発信なども特徴的です。
既にSDGsへの取り組みを検討・実践しているのであれば、粛々と取り組むことも大切ですが、自社の活動が対外的にどう見えるのか、広報担当者を巻き込んで検討してみましょう。
SDGsによる活動が自社に良い影響として返って来るには、社会からの認知があることが重要です。
大川印刷の取り組みはテレビ神奈川の番組で取り上げられ、環境印刷に関してインタビュー形式で語られています。
大川印刷についてはこちらの記事でより詳しく説明されています。ぜひご覧ください。
出典:大川印刷・ 大川 哲郎 代表取締役社長【神奈川ビジネス Up To Date】2017.1.30放送|テレビ神奈川 tvk3ch
国内首位、世界シェア第3位の大企業として農業機械、水道用鉄管、工作用機械など様々な製品を世界中に送り出している株式会社クボタ(以下、クボタ)。
クボタでは多様な生物の保全についても色々な取組みがなされています(SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさを守ろう」)。具体的には、近年大規模な破壊が懸念されるサンゴの再生ボランティア、稚魚放流、植樹活動や野生鳥獣の保護です。その他にも水源地の清掃活動、水源林の伐採作業や、落ち葉回収といった取組みが行われています。
これらの活動は比較的簡単に取組みやすく、地域社会と連携することもできます。地域社会に溶け込み貢献しようというクボタの理念がここからも伝わってきますね。
ユニークな取組みとして、「クボタの森」と名付けられた玉川上流域の水道水源林で、毎年クボタの研修生30~40人が森づくりに参加するプロジェクトがあります。研修生は植栽や除草作業を通して、水道の源流である林がどのように守られているのかを体験し、学ぶ機会を得ます。
クボタで芽生えた小さな芽がやがて大きな木となっていく。
クボタの理念である循環型の事業がここでも活かされています。
クボタについてはこちらの記事でより詳しく説明されています。ぜひご覧ください。
参照:クボタ公式サイト「生物多様性の保全」 「クボタのSDGsへの貢献」
SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」では、陸地の生態系を持続可能な形で利用していくとともに、森林や土地を再生することが求められています。
改めて、SDGsの目標15の実現に求められている要点は、以下2点です。
森林は建材や紙などの材料になり、わたしたちの暮らしに欠かせないものです。企業活動にも幅広く関わっており、取り組みやすいSDGsの目標の1つと言えるでしょう。
適切な森林管理がなされているFSC認証の原材料の使用やFSC認証のパッケージの採用など、主にサプライチェーンの調達フェーズにおいて、SDGsの目標15の内容に取り組むことができます。
特に今回、ご紹介した大川印刷やキリンビバレッジの事例は、幅広い業種で同様な取り組みが可能な事例だと思いますので、自社での取り組みのきっかけとして検討してみてはいかがでしょうか。
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