SDGs(持続可能な開発目標)の目標14は「海の豊かさを守ろう」を切り口に、海と海にある資源を守り、持続可能な形での海洋資源の利用を定めています。特に深刻な海洋プラスチックの問題は、スーパーでのレジ袋の有料化・削減など、わたしたちの暮らしにも密接に関わっている大きな社会課題です。
本記事では、SDGsの目標14で定めている10のターゲットとポイントを解説します。また、今後わたしたちが取り組むべきこととコカ・コーラや無印良品などの企業が既に取り組んでいる事例をあわせてご紹介します。ビジネスパーソンとしてSDGsへの取り組み方を読み解くヒントをお伝えしていきますので、ぜひご覧ください。
SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」では、持続可能な開発のために、海洋及び海洋資源の保全と持続可能な形での利用を定めています。
この目標を実現するため、10個のターゲットが設定されています。
【SDGsの目標14.海の豊かさを守ろうの10のターゲット】
SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」は、主に「人間の活動による海洋汚染の防止」と「漁獲量の適切な管理による、持続可能な海洋資源の利用」が目的です。10のターゲットは、上記の2つの目的を実現するための具体的な対応の方向性として明記されていることを理解しておくとよいでしょう。
出典:SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
海の豊かさを守るためには、海と海の資源を保全しながら、持続可能な形で利用していく必要があります。
SDGsの目標14のターゲットの内容から、ビジネスパーソンとして押さえておくべき3つの要点をご紹介します。
【海の豊かさを守るべき3つの理由】
次から1つずつみていきましょう。
自然に分解されないプラスチックごみは、やがて海にたどり着いて「海洋プラスチック」になります。
2016年の世界経済フォーラム(WEF)での資料によると、毎年800万トンのプラスチックごみが海に流出することで、2050年にはプラスチックの重量が魚の重量を上回ると言われています。
5mm以下の微細なマイクロプラスチックは、含有・吸着する化学物質が食物連鎖に取り込まれることによって、生態系に悪影響を及ぼす懸念があり、プラスチックごみの削減、海への流出の抑止は急務であると位置づけられました。
人間の活動によって増加の一途を辿る海洋プラスチックの状況を踏まえ、SDGsの目標14では、明確に海洋汚染の対策が打ち出されています。
出典:The New Plastics Economy: Rethinking the future of plastics | 世界経済フォーラム
世界で魚を食べる人が増えるとともに、ルールを逸脱した漁獲(違法・無報告・無規制の頭文字をとったIUU漁業)が横行することによって、海洋資源が減り続けている状況にあります。事実、1970〜2012年の42年間で、魚類などの海洋生物の個体数が49%減少しています。
国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した世界の海洋水産資源の状況を見てみると、1974年は10%だった「過剰に漁獲されている状態の資源」の割合が、2017年は34%まで増加していることが分かりました。
こうした状況を踏まえ、SDGsの目標14では過剰漁業を抑制するために必要な内容が定められています。
出典:The State of World Fisheries and Aquaculture -2020|FAO
過剰漁業は海洋資源の減少を進めるだけでなく、開発途上国の栄養や経済、雇用などにも影響があります。小さな島で構成されている小島嶼開発途上国は、国土のほとんどが海に面しており、世界に対する魚の供給量も多く、漁業などの一次産業に経済や雇用が依存しています。
世界の漁船漁業の国別漁獲量の推移を見ると、中国についでインドネシアなどの海に面した国で盛んに漁業が行われていることが分かります。
また、漁業が盛んな途上国では、動物性タンパク質を魚から得ている人々が多く、バングラデシュやカンボジアなどではその比率が50%を超えていることから、開発途上国および小島嶼開発途上国において水産資源の動向は非常に重要です。
国際連合食料農業機関(FAO)の資料によると、動物性タンパク質を魚から得ている比率が20%以上(上記図のオレンジ色の点)ある国が、カンボジアやスリランカなど海に面した国周辺で多く見られることが分かります。
このような経緯があり、SDGsの目標14では小島嶼開発途上国及び後発開発途上国が持続的に成長できるような目標が定められています。
出典:世界の漁船漁業の国別漁獲量の推移 令和2年度 水産白書|水産庁
出典:The State of World Fisheries and Aquaculture 2020
出典:目標14 海の豊かさを守ろう――ハイブリッドな実施手段の活用(箭内 彰子) - アジア経済研究所
出典:The State of World Fisheries and Aquaculture -2020|FAO
以上のように、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」の10のターゲットから、主に人間の活動による海洋汚染を防ぐことや、限りある海洋資源を適切に管理し、持続的に利用するなどの目標の方向性が分かります。
SDGsの目標14を達成するため、日本では2022年4月に「プラスチック資源循環促進法」を施行しました。代表的な取組みとして挙げられるのが以下の3つです。
消費者に大きく影響するのは、特定商品の使用の合理化です。これまで無償で提供されていた商品について、使用意思の確認や有償化などが行われます。
対象となるのは以下の12商品です。
取り扱い先 |
該当商品 |
小売業・宿泊業 |
フォーク・スプーン・ナイフ・マドラー・ストロー |
宿泊業 |
ヘアブラシ・くし・かみそり・シャワー用キャップ・歯ブラシ |
小売業・洗濯業 |
ハンガー・衣類用カバー |
プラスチックごみを減らし海を守るためには、国・企業・消費者すべてが取り組まなくてはなりません。商品を特定すると、規制を強め、消費者の意識改革をすることが可能です。また提供する製品に対する工夫も進みます。プラスチック資源循環促進法は、プラスチックの問題に対して効果的な取組みとなるでしょう。
参照:プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラ新法)の普及啓発ページ
参照:特定プラスチック使用製品の使用の合理化 | プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラ新法)の普及啓発ページ
海の豊かさを守るためにわたしたちにできることの1つとして、「MSC認証マーク」のついた水産物を選択する方法があります。
MSC認証マーク(出典:MSC)
MSC認証マークは「海のエコラベル」とも呼ばれ、水産資源と環境に配慮し、適切に管理された持続可能な漁業によって獲られた天然水産物を証明するものです。
MSC認証の認証評価は、漁業を審査する専門家チームで構成された審査機関が執り行っており、漁業現場の訪問や関係者への聞き込み、データ収集などを経て厳格に審査されています。
今後も長期的に捕獲できるように配慮され、持続可能な漁業によって獲れた魚が好まれるマーケットになれば、過剰漁業を抑制することにもつながるでしょう。
MSC認証と同様に、環境や社会への影響を考慮した養殖による水産物の証である「ASC認証」制度もあります。2022年2月時点で国内のASC認証養殖場は81ヶ所あり、ASC認証ロゴ付きの消費者向け製品は436製品に上ります。
ASC認証マーク(出典:WWF)
消費者視点では、こういった環境に配慮された商品が身近に広く流通していくことで、手軽に社会課題の解決に参加できるようになります。
一方で、商品やサービスを提供する側の視点から言えば、これからの時代、商品そのものが「顧客が求める機能や欲求」を満たしてくれるだけでは選ばれない状況がさらに進むでしょう。
顧客へ商品やサービスが届くまでに、社会への配慮や企業モラルなどの見えない付加価値がついていることが当たり前になる。SDGsの取り組みが浸透・広がっていくことは、市場の購買行動にも影響していくことを理解しておく必要があるでしょう。
出典:MSC「海のエコラベル」とは | Marine Stewardship Council
海の豊かさを守るためには、社会への影響や責任の大きい企業においても積極的に取り組むことが求められます。各企業ではSDGsの目標3に対して、どのような取組みを行っているのでしょうか。取組みの参考に、事例をチェックしたいと考えるビジネスパーソンも多いでしょう。
そこで以下3社の取組み事例について紹介します。
日本の消費者と最も密接な企業のひとつで、なおかつグローバル企業でもある日本コカ・コーラは廃棄物ゼロ社会を目指して、2018年1月に「容器の2030年ビジョン」を設定しました。2025年までに全てのペットボトル容器の原材料をサステナブル素材に切り替え、2030年までに販売量と同等のペットボトルを回収できる体制を構築するというロードマップを掲げ、推進しています。 この取組みはSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」、目標14「海の豊かさを守ろう」などに該当します。
具体的な取組み事例としては、コカ・コーラやジョージアなどの主力商品の使用済みペットボトルを原材料として製品に生まれ変わらせる「ボトルtoボトル」活動などを実施。ボトル一本製造あたりのCO2排出量を約60%削減することに成功しています。
また、100%リサイクルペットボトルや分別の手間がかからないラベルレスボトルなどの循環型社会実現への取り組みが評価され、2020年に第21回グリーン購入大賞プラスチック資源循環特別部門 大賞など複数の賞が授与されました。
写真(Fotazdymak / Shutterstock.com)
株式会社良品計画によるライフスタイルブランドである無印良品では、脱プラスチックを目的とした取組み「水プロジェクト」を推進しています。この取組みはSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」、目標14「海の豊かさを守ろう」などに該当します。
無印良品ではPET素材回収のリサイクルを開始。さらに毎日ボトルを捨て新しいものを購入するのではなく、水の詰め替えができるよう、店舗内に給水器を設置しています。給水サービスではマイボトルも使用が可能です。さらに店舗内では、以下のようなアイテムを販売しています。
リーズナブルな水ボトルを販売しつつ給水サービスを行うのは、売上につながるだけでなく利用客にも便利な仕組みです。アプリを使うと給水ポイントも確認できて、環境への貢献度も分かるようになっています。
取組みの結果、2021年度に回収したプラスチックボトルの回収量は729キログラム。回収したボトルはポリエステル原料にリサイクルして、石油由来原料の有効活用につなげています。
日本のICT企業であるNTT西日本では、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」に基づき、海洋プラスチックの社会課題への対応として、通信設備に関わるプラスチックごみの削減に取り組んでいます。
具体的には、NTT西日本の通信設備(ONUやホームゲートウェイ等)に対して、以下の内容に取り組んでいます。
ビニール袋を使用しない梱包に工夫をしたことで、年間3.5トンのビニールの削減が見込まれています。
自社のサプライチェーンの見直しにより、使い捨てになってしまうワンウェイプラスチックの削減を行った事例です。
SDGsの目標14に基づく取り組みは、業界によっては自社で取り組みにくい場合もあるでしょう。飲食業であれば、持続可能な漁業に配慮されたMSC認証マークの商品を積極的に仕入れに採用するなどもできますが、自社の業務領域が漁業や水産物に関連しない場合は難しいかもしれません。
一方、プラスチック製品はあらゆる場面で利用されています。自社のサプライチェーンなどを見つめ直してみることで、取り組める領域が見つかるかもしれません。
写真(rafapress / Shutterstock.com)
SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」では、海と海の資源を持続的に利用できるような国際的な取り組みや運用が求められています。
改めて、SDGsの目標14の実現に求められている要点は、以下2点です。
自社の本業が水産物の仕入れや業務に関係している場合は、今回ご紹介した環境に配慮されたMSC認証やASC認証製品を取り入れるなど、直接的な取り組みができるでしょう。
一方、自社の業務領域が漁業や水産物に関わりがない場合は、取り組み方の糸口がつかみにくいかもしれません。SDGsに積極的に取り組まれている企業事例を読み解くことで、一見関わりのない海の保全につながるヒントが見えてくるはずです。
特に「プラスチックの削減」は取り組みやすい内容です。NTT西日本のワンウェイプラスチックの削減事例のように、企業活動におけるサプライチェーン上のプラスチック利用場所を洗い出すことによって、改善できる余地が見つかるかもしれません。ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
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