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SDGsの目標8とは?「働きがいも経済成長も」が必要となる理由

作成者: ツヅケル編集部|2022/08/02 2:11:16

多くの人が、労働の対価として報酬を得て生活をしています。しかし世界には、失業者や十分な報酬もなく過酷な労働を強制されている人々も少なくありません。兵士として働かされている子どもも大勢存在します。悲しいことに、未だに人身売買も取り交わされています。

その状況を変えるために設けられたのが、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」です。

本記事では、目標8でのターゲットや必要な理由、日本での課題などについて紹介していきます。目標8は企業の未来にも直結するものであるため、各企業での取組みが必要です。

マクドナルドや楽天などの企業の実際の取組み事例を参考にしながら、自社がどのように目標8に取組めるのか考えてみましょう。

 

【Pick Up】「ツヅケル」が注目したビジネスパーソンがSDGsの目標8を読み解くポイント

  • 働きがいは企業の維持・成長にとっても重要な課題
  • 目標8を達成するには「ディーセント・ワーク」の実現が必要

 

SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」12のターゲット

SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」では、「包摂的で持続可能な経済成長・すべての人々の完全かつ生産的な雇用・働きがいのある人間らしい雇用」が目標に掲げられています。目標を達成するためのターゲットは以下の通りです。

【SDGsの目標8.働きがいも経済成長も】

  • 8.1 各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。
  • 8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
  • 8.3 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する。
  • 8.4 2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。
  • 8.5 2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する。
  • 8.6 2020年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす。
  • 8.7 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。2025年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する。
  • 8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。
  • 8.9 2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。
  • 8.10 国内の金融機関の能力を強化し、すべての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。
  • 8.a 後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)などを通じた支援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する。
  • 8.b 2020年までに、若年雇用のための世界的戦略及び国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開・運用化する。

世界には、働く意思のある失業者が約2億500万人存在します。また世界では、5人に1人の若者(15〜24歳)が教育も受けておらず、仕事にもつけず、職業訓練を受けることもできない状況にあります。その結果として貧困や飢餓に苦しんでいる人もいます。

SDGsの目標8は、目標1の「貧困をなくそう」や目標2「飢餓をゼロに」などにもつながるものです。さまざまな課題を解決するためにも、目標8に対する世界的な取り組みが求められています。

 

出典:農林水産省「SDGsの目標とターゲット」

出典:World employment and social outlook: Trends 2021(ILO)

出典:SDGs CLUB 8.働きがいも経済成長も|UNICEF

 

SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」が必要な理由

SDGsの目標8は「雇用と経済成長」が大きなテーマです。単に雇用問題を改善するだけでなく、途上国では経済成長も求められています。雇用と経済成長が課題として必要となる代表的な理由は次の3つです。

  • 労働を強制される児童が多数存在する
  • 劣悪な環境での強制労働が行われている
  • 何もしていない若者の割合が深刻である

それぞれについて解説していきます。

 

労働を強制される児童が多数存在する

目標8で雇用の改善が求められているのは、劣悪な環境で労働を強制される子どもが大勢存在するからです。

世界の児童労働者数は、2000年の段階では2.5億人以上でした。しかし2016年までのあいだに、9,400万人減少しています。人数だけ見ると、改善していると言えるでしょう。

しかし現在でも、1.52億人の児童が労働をせざるを得ない状況にあるのです。長時間の重労働を強いられている子どもも少なくありません。

さらに深刻な問題が児童兵士です。18歳以下で軍または武装組織で戦闘に参加させられている子どもたちが、世界には25万人以上います。いきなり家族のもとから連れ去られた子どもも少なくありません。暴力を受けたり、そのまま殺されたりする子どもも存在します。

子どもたちが健やかに自分らしく生きるために、児童労働は撲滅しなくてはなりません。

 

出典:元子ども兵士の男の子~ジェームスくんの物語 |日本ユニセフ協会

出典:【地図で読む】18歳以下の「子供兵士」は世界に約25万人いる|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト 

出典:児童労働 | 子どもの保護 | ユニセフの主な活動分野

 

劣悪な環境での強制労働が行われている

SDGsで雇用問題の改善が求められているのは、劣悪な環境での強制労働が行われているのも理由の1つです。

強制労働や強制結婚は、現代奴隷制とも呼ばれていて、2016年の段階で4,000万人存在していると言われています。
強制労働の犠牲者は全世界で2,500万人、強制結婚は1,500万人。そのうち7割以上が性的な搾取の犠牲になりやすい女性と少女です。

また国家により農作業や建設業を強いられたり、移住がきっかけで強制労働を強いられたりする人も少なくありません。

過酷な作業に従事している強制労働者ですが、その賃金は雇用主に搾取されてしまいます。十分な収入が得られず、どれだけ働いても貧困から抜け出せない人も多いのが現状です。強制労働の背景は国や地域により違うため、状況に合った対策が必要でしょう。

そのためSDGsでの目標として、雇用の改善がターゲットに設定されているのです。

 

出典:現代奴隷制の世界推計 - アライアンス 8.7 強制労働と強制結婚

写真(Dong Nhat Huy / Shutterstock.com)

 

就業・就労していない若者の割合が深刻である

就学・就労していない若者の割合が深刻であるのも、SDGsの目標8が必要な理由です。

世界では15~24歳の若者のうち、5人に1人が、就学・就労・職業訓練を行っていません。本人の意思で何もしていない若者もいるでしょう。しかし学校に行けないのが原因で職に就けず、職業訓練の機会すら与えられない若者も大勢います。

この割合は、アジアの一部地域や北アフリカでは、4人に1人と大きく上がるのです。また若い女性は男性よりも就学・就労できる割合が下がります。

若者のうちに学習して働く機会を得られないと、経験を積み技術を身につけることもできません。若者が働かない社会は、経済成長が難しいでしょう。安定した経済成長を続けるためにも、若者が質の高い教育を受け、就業の機会を得る必要があります。

 

出典:SDGs CLUB 8.働きがいも経済成長も|UNICEF

出典:ゴール8:働きがいも経済成長も | 国際開発センター(IDCJ)SDGs室

 

日本が解決すべき雇用と経済成長での課題

 

2020年12月の段階で、日本は世界第3位の経済大国です。しかし雇用や経済での大きな問題を抱えています。

 

特に大きな問題が、ニート(若年無業者)です。義務教育の終了後も、日本では多くの人が高校・大学と学校に通います。しかし卒業後に就業意欲を持たない人も少なくありません。かつては働いていても、就業意欲を失った人もいます。調査結果によると、ニートの数は2019年以降、増加傾向にあります。

また経済面においては、少子高齢化も大きな問題です。1947~1949年に生まれた団塊の世代だけでなく、やがては団塊ジュニアの世代も引退を迎えます。その結果として事業の継続が困難になると見込まれる企業も多数あるのです。

経済成長を続けるためには、働き手の確保が必要になります。問題の改善につながるのが、SDGsの目標8と関連付けられている「ディーセント・ワーク」です。「ディーセント・ワーク(Decent Work)」とは、「働きがいのある人間らしい仕事」という意味を持ちます。この言葉は、1999年に国際労働機関の元事務局長によって提唱されました。

若年者の就業意欲を高め経済成長を続けるためには、日本においてもディーセント・ワークの推進が求められます。

 

出典:労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果の要約|総務省統計局

出典:国際活動 ディーセント・ワークの実現|日本労働組合総連合会

出典:1 出生数、出生率の推移: 子ども・子育て本部 - 内閣府

 

 

「働きがいも経済成長も」を実現するための日本政府の取組み

日本政府でも、SDGsの目標8を達成するための取組みが進められています。取組みのなかでも、特に多くの人に直結しているのが以下の2つです。

  • ディーセント・ワークの実現
  • 同一労働同一賃金

どのような取組みを行っているのかを紹介していきます。

 

日本のSDGs取組み事例①:働き方改革

ディーセント・ワークの実現を目標として、日本では厚生労働省を中心に「働き方改革」を提唱しています。国内で特に大きな問題として考えられているのが次の3つです。

  • 労働人口不足
  • 長時間労働の是正
  • 雇用形態や性別による格差

深刻化する労働人口不足により、従来より労働時間が伸びた人も多いでしょう。労働時間が伸びても、雇用形態や性別により十分な収入が得られない人も少なくありません。

新型コロナウイルスの感染拡大により、図らずもリモートワークは急速に不足しました。しかしすべての職種でリモートワークが実現するわけではありません。またリモートワークが可能でも、否定的な考えを持つ企業もあります。

働き方改革は、個人の努力ではなし得ないものです。政府は働き方改革について「一億総活躍社会の実現に向けたチャレンジ」だとしています。働き方改革を推進するためには、政府による積極的な働きかけと、企業の具体的な行動が必要です。

 

参照:一億総活躍社会の実現 | 首相官邸ホームページ

参照:「働き方改革」の実現に向けて |厚生労働省

 

日本のSDGs取組み事例②:同一労働同一賃金

同一労働同一賃金は、目標8の達成に向けた働き方改革の1つです。そのため日本では「パートタイム・有期雇用労働法」と「労働者派遣法」の改正が行われました。

同じ仕事をしていても、雇用形態や性別で待遇に大きな差があったためです。非正規雇用であると、福利厚生も違い、退職金もありません。結果的に「働きがいがない」と感じていた人も多いでしょう。

法改正により、賃金格差は解消されつつあります。しかし「待遇差が縮まっていない」と感じる人もいるのが現実です。政府・企業の双方に対し、ますますの改善が求められます。

 

参照:パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために|厚生労働省

参照:労働者派遣法が改正されました|厚生労働省

 

SDGs目標8に基づく企業の取組み事例

SDGsの目標8に基づく企業の取組み事例を紹介します。紹介するのは以下の3社です。

実際の取組み事例についてチェックしていきましょう。

 

マクドナルドのSDGs取組み事例:働きがいをすべての人に

マクドナルドでは以前から「働きがいをすべての人に」として取組みを実施しています。なぜなら企業の成長を支えるのは人だとの考えがあるからです。

マクドナルドには定年制度がありません。シニア・学生・主婦・外国人・障害者など多くの人が、それぞれのライフスタイルに合わせて勤務しています。高校生から90代まで、基本となる業務は同じです。

この取組みは、SDGsでの以下の目標にあてはまります。

  • 目標5 ジェンダー平等を実現しよう
  • 目標8 働きがいも経済成長も
  • 目標10 人や国の不平等をなくそう
  • 目標17 パートナーシップで目標を達成しよう

基本的な業務を同じにできるのは、マクドナルドの業務形態があってこそでしょう。そのためすべての企業で可能な取組みではありません。しかしながら定年制度の廃止や、ライフスタイルに合った働き方などは、どの企業でも取組みが可能です。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、さまざまな企業でワークスタイルに大きな変化が生じました。ネガティブな理由から浸透した在宅ワークも、ライフスタイルに合わせた働き方につなげられるでしょう。自社の業務形態で「ディーセントワーク」を提供するには何ができるのかを検討してみましょう。

 

参照:働きがいをすべての人に | McDonald's Japan1634 

写真(Sorbis / Shutterstock.com)

 

 

 

楽天のSDGs取組み事例:地域活性化

多くの人が利用するサービス・楽天でも、SDGsの目標8への取組みを行っています。

楽天がスタートした1997年、地方では商店街にある多くの店が、大型商業施設の出店・後継者問題などの理由で窮地に陥っていました。そんな状況で「日本を元気にしたい」と三木谷社長を含む6人が集まったのです。

楽天は「Rakuten Merchant Server」という店舗運営システムにより、パソコンが分からなくても簡単に出店することができます。

この取組みは、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」にあてはまるものです。

チャレンジによって廃業せずに済んだ店も多数あります。楽天への出店により業績が伸び、働きがいを感じている経営者や従業員も多いでしょう。

商店街にある店を元気にする取組みは、瞬く間に楽天を巨大企業へと押し上げました。さらに多くの店で経営が安定する結果に至っています。楽天のようにゼロから商売を始めるのは難しいものです。しかし楽天の事例は、地域の店との連携でもお互いの働きがいを高められる可能性を示唆しています。働きがいと経済成長を同時に達成するなら、地域に目を向けてみるのも良いでしょう。

 

参照:楽天創業メンバートーク!【前編】~創業当時から根付く楽天のDNAとは?~ 

写真(Sergei Elagin / Shutterstock.com)

 

 

 

ヤクルトのSDGs取組み事例:サプライチェーンマネジメント

「人も地球も健康に」をコーポレートスローガンに掲げる日本の飲料・食品・化粧品・医薬品メーカーであるヤクルトは、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」に基づき、商品が消費者に渡るまでの過程において、人権や労働といった社会問題にも持続可能性を高める取組みを行っています。

特に、事業を行う国や地域の持続可能な発展に貢献するため、現地雇用や現地調達を基本とした「現地主義」を徹底しています。

インドネシアでは売り上げが順調に伸長していることで、過去10年間でヤクルトレディ数が約3.5倍の約1万人に増え、大きな雇用が生まれています。都市部以外のエリアでは、女性の就労が難しい状況にあるインドネシアでも、家庭と仕事が両立できるよう自宅に近い担当エリアで仕事ができるようにするなど、ディーセント・ワークの取組みが実現されています。

 

また、ヤクルトグループでは企業内保育所を運営することで、女性が継続的に働ける環境が整っています。ヤクルトの保育所は全国1,033か所(2021年3月現在)に設置されており、女性の社会進出と働きがいに貢献しているのが分かります。

 

このような取組みが評価され、ヤクルトは持続可能な開発目標(SDGs)推進本部が主催する、第2回ジャパンSDGsアワードで「SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」を受賞しました。

 

商品が消費者に届くまでの過程には、数多くの企業活動があるはずです。ヤクルトのSDGsの取組みも、自社の事業活動を明示的に段階分けし、その段階ごとに貢献できるSDGsの取組みを捉え、具体的な施策を策定しています。

自社でどこからSDGsの取組みに手を付けたらよいのか分からないのであれば、一度自社のサプライチェーンを理解するところから始めてはいかがでしょうか。

 

出典:第2回ジャパンSDGsアワードの結果 SDGsパートナーシップ賞(特別賞)|外務省
出典:ヤクルトレディに対する取組み|ヤクルトCSRレポート2021
出典:ヤクルト保育所とは?|ヤクルトレディのお仕事情報

 

 

 

SDGsの目標8達成のために企業ができること

SDGsの目標8は「働きがいと経済成長」が課題として取り上げられています。目標8は、SDGsの他の目標と特に密接に関係しているもの。貧困・飢餓・格差・不平等をなくすためにも、目標8への取組みが必要です。

世界的に見ると、強制労働や児童労働・児童兵士を早急に解決するべきでしょう。また日本も含め、就学・就労・職業訓練のいずれもしていない若者の割合を減少させていく必要があります。

企業に直接関係するのが目標8です。どの企業でも、スタッフの働きがいを高めつつ成長を続けなくてはなりません。特に日本においては、少子高齢化に伴って今後ますます働き手が減少します。そのなかで優秀な人材を確保し、企業を維持・成長するためには、働きがいのある仕事、つまり「ディーセント・ワーク」の提供が喫緊の課題です。

労働者に選択肢が増えれば、働きがいの少ない会社は存続の危機に直面しかねません。自社が直面する大きな課題として、SDGsの目標8への取組みを考える必要があるでしょう。

 

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