株式会社ヤクルト(以降、ヤクルト)は、「人も地球も健康に」をコーポレートスローガンに掲げる日本の飲料・食品・化粧品・医薬品メーカーです。乳酸菌飲料でおなじみの「ヤクルト」や飲むヨーグルトの「ジョア」など、一度はヤクルトの商品を口にしたことがあるのではないでしょうか?
ヤクルトは、「予防医学」を原点に世界の人々の健康を守ることを企業理念にしています。その事業領域は国内に留まらず、国際的にも広くヤクルト商品が届けられています。そんなグローバル企業であるヤクルトが行うSDGs(持続可能な開発目標)への取組みについて、具体的な事例を交えながらお伝えしていきます。
写真(Dhodi Syailendra / Shutterstock.com)
【Pick UP】「ツヅケル」が注目したヤクルトのSDGs取組みのポイント
- 創業理念=SDGs理念という事業の成り立ちを活かしたビジネスの推進
- 製品・販売チャネル・サプライチェーン全体の協働によりSDGsインパクトの最大化を図る
- 全国の販売員ネットワークを活かした地域社会への貢献
ヤクルトのSDGs取組み方針
ヤクルトのSDGs取組みは、その全てがSDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」につながるものとなっています。それはヤクルトの創業時の精神である「世界の人々の健康を守りたい」に由来しています。そして「私たちは、生命科学の追究を基盤として、世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献します。」という企業理念に基づき、重要課題(マテリアリティ)の策定に至っています。
ヤクルトグループでは、世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献するという使命を実現するべく、以下の6つの重要課題を定めています。
【ヤクルトグループの6つの重要課題(マテリアリティ)】
- イノベーション
- 地域社会との共生
- サプライチェーンマネジメント
- 気候変動
- プラスチック容器包装
- 水
この6つの重要課題を踏まえ、ヤクルトグループでは、17の持続可能な開発目標のうち、特に関わりの深い8つの目標を明確に事業と関連づけ、見える化しながら取り組んでいます。
また、ヤクルトでは自社の事業を5段階に分け、各段階で貢献できるSDGsを整理し、具体的な取組みを実行しています。
本記事では、ヤクルトのSDGsの取組み内容を具体的な事例を交えてご紹介致します。自社での取組みの参考になりますので、ぜひご覧ください。
- ヤクルトのSDGs取組み事例①:本業を通じた健康増進の取組み
- ヤクルトのSDGs取組み事例②:プラスチック容器包装
- ヤクルトのSDGs取組み事例③:サプライチェーンマネジメント
- ヤクルトのSDGs取組み事例④:地域社会との共生
ヤクルトのSDGs取組み事例①:本業を通じた健康増進の取組み
「世界の人々の健康を守りたい」という精神に基づいて創業されたヤクルトは、事業を推進していくことそれ自体がSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」の実現に向けた活動になります。
現在、人々の腸内環境を整えるヤクルトは世界40の国と地域に及び、その販売対象人口は約24億人と実にアメリカ7個分にも拡大しています。また飲まれている量は、1日あたり4,000万本以上(2021年3月時点)となっています。
さらなる健康増進に向けたイノベーション開発投資も積極的に行っており、ヤクルトが保有する国内外の特許件数は約1,000件です。さらに地域社会の共生という観点では、全国のヤクルトレディが「愛の訪問活動」で高齢者宅の見回りを実施しており、2020年には約36,000人の高齢者に商品を届けながら健康状態や安否確認を行っています。
また、脱炭素・脱プラの取組みでは、2020年度には年間384,930tのCO2排出削減、12,237tのプラスチック使用量削減を達成しました。
こうした活動が評価され、2018年に内閣総理大臣が本部長を務める「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」主催する「第2回ジャパンSDGsアワード」において特別賞「SDGsパートナーシップ賞」を受賞しました。
SDGsの取組みにおいてはまさに先進企業ともいえるヤクルト。その個別の取組みについても見ていきましょう。まずは脱プラの事例からご紹介します。
ヤクルトのSDGs取組み事例②:プラスチック容器包装
ヤクルトグループでは、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」に基づき、プラスチック容器包装の資源循環を推進する取組みを行っています。
2021年4月に「環境ビジョン2050」を発表後、中期的な2030年の環境目標としてプラスチック容器包装の国内使用量を、2018年度比30%削減あるいは再生可能にする目標を設定しました。
具体的な取組みとして、一部ペットボトル商品のラベルに回収ペットボトルを再利用した、環境対応型再生PETラベルを採用しています。プラスチック資源循環推進の観点からこの取組みを進めており、ラベルの原材料の25%を回収ペットボトルから再利用することができています。
出典:再生PETを使用したラベルを採用|ヤクルトCSRレポート2021
また、ヨーロッパヤクルトでは二次包装・三次包装に使用される素材を、プラスチック包装から厚紙製のカートン包装に切り替えるなど、プラスチックの使用を減らす取組みが進められています。
カートン包装への切り替えは、オランダ・ドイツ・オーストリア・ベルギー・フランス・スペインに加え、2020年末にはイタリア・マルタが加わり、脱プラスチック包装の取組みが広がっています。
世界各国や日本全国への販売網・拠点がある場合、商品の包装素材の切り替えあるいは簡素化といった、一見小さな取組みでも、社内をはじめグループ全体への水平展開をして積み重なると、大きな効果が期待できます。
水平展開時に大きな波及効果が得られる領域を探すためには、自社の事業活動を部門を横断的に俯瞰し、共通点や重複があるポイントを探すことからはじめるのが良いでしょう。
出典:再生PETを使用したラベルを採用|ヤクルトCSRレポート2021
ヤクルトのSDGs取組み事例③:サプライチェーンマネジメント
ヤクルトは、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」に基づき、商品が消費者に渡るまでの過程において、人権や労働といった社会問題にも持続可能性を高める取組みを行っています。
特に、事業を行う国や地域の持続可能な発展に貢献するため、現地雇用や現地調達を基本とした「現地主義」を徹底しています。
インドネシアでは売り上げが順調に伸長していることで、過去10年間でヤクルトレディ数が約3.5倍の約1万人に増え、大きな雇用が生まれています。都市部以外のエリアでは、女性の就労が難しい状況にあるインドネシアでも、家庭と仕事が両立できるよう自宅に近い担当エリアで仕事ができるようにするなど、ディーセント・ワークの取組みが実現されています。
また、ヤクルトグループでは企業内保育所を運営することで、女性が継続的に働ける環境が整っています。ヤクルトの保育所は全国1,033か所(2021年3月現在)に設置されており、女性の社会進出と働きがいに貢献しているのが分かります。
このような取組みが評価され、ヤクルトは持続可能な開発目標(SDGs)推進本部が主催する、第2回ジャパンSDGsアワードで「SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」を受賞しました。
商品が消費者に届くまでの過程には、数多くの企業活動があるはずです。ヤクルトのSDGsの取組みも、自社の事業活動を明示的に段階分けし、その段階ごとに貢献できるSDGsの取組みを捉え、具体的な施策を策定しています。
自社でどこからSDGsの取組みに手を付けたらよいのか分からないのであれば、一度自社のサプライチェーンを理解するところから始めてはいかがでしょうか。
出典:第2回ジャパンSDGsアワードの結果 SDGsパートナーシップ賞(特別賞)|外務省
出典:ヤクルトレディに対する取組み|ヤクルトCSRレポート2021
出典:ヤクルト保育所とは?|ヤクルトレディのお仕事情報
広報PR:動画「ヤクルトの保育所」篇
ヤクルトのHPでは、ヤクルト保育所の紹介動画を発信をしています。保育園での子どもたちの1日の流れを具体的に解説しており、働く女性が安心して子どもを預けられることがよく伝わる動画になっています。
ヤクルトのSDGs取組み事例④:地域社会との共生
人々の健康に役立つ乳酸菌飲料を生産・販売するヤクルトグループは、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に基づき、人々の健康に寄与する出前授業や健康教室の推進を目標に掲げています。
世界中でヤクルトグループの社員が小学校などに出向き、腸の大切さや腸内環境を健康的に保つ生活習慣について、出前授業を行っています。2020年度は日本国内で約1,500回授業が行われ、約7万人が参加。世界では約17,100回、参加者は約128万人に上ります。
この取組みは高い評価を受けており、ヤクルトは一般社団法人日本食育学会から「食育推進企業・団体」に認定され、同学会が発行する「日本食育学会誌」にも事例として掲載されています。
同じくヤクルトグループの社員等が講師になり、腸の大切さや季節ごとに流行する疾患等、幅広いテーマで健康情報を伝える健康教室も国内外で広く行われています。
また、ヤクルトといえば「ヤクルトレディ」という地域密着の販売員が有名ですが、担当エリアのお客さん一人ひとりの健康状態を把握して、時には「お節介」なほどのきめ細かいケアを行うことで地域の腸内環境を守っています。
このように、ヤクルトグループでは商品を通じて人々の健康に寄与する活動に、多数取り組んでいることが分かります。
小学校などへの出前授業を通じて健康や食育の大切さを伝えるとともに、幼い時から自社商品への接点を増やして認知を広げることにより、商品への親しみやすさを醸成しているとも言えるでしょう。マーケティングの視点から、こういった取組みは長期目線のブランディングの形成にも活かせるのではないでしょうか。
出典:ヤクルトグループのマテリアリティ|ヤクルトCSRレポート2021
出典:ヤクルトの出前授業
広報PR:動画「ヤクルトの出前授業」篇
ヤクルトのHPでは、出前授業の様子を動画で見ることができます。小学校で実際にどのような授業が行われているのか、そして授業を受けた子どもたちが、どのような気づきがあったのかを具体的に発信しています。
食育の一環として出前授業を導入したいと考えている関係者へ、この取組みの社会的意義や授業の様子などが、動画で分かりやすく発信されています。
ヤクルトから学ぶ持続可能なビジネスへのヒント
ヤクルトのSDGsの取組みの特徴は、そもそも創業理念がSDGsの理念と共通しているため、ビジネスの拡大がダイレクトにSDGs目標の達成につながる点にあります。
その上で、自社の事業活動を5段階に分け、各段階でどの目標に対して、どんな取組みを行っているかを見える化していることです。こうすることで、さまざまな事業領域で働くヤクルトの従事者でも、自分がどのSDGsの取組みに参画しているのか分かりやすくなり、自分事として捉えやすくなります。
改めて、ヤクルトのSDGsの取組みにおける要点は、以下4点です。
- SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」に直結する本業という立場から、健康という切り口で国内外で若年層からシニア層まで幅広くSDGsに貢献できる施策を行う
- 単体では小さな取組みでも、積み重なると大きな効果が得られる取組みを行う
- 視座の高い世界への貢献や地球環境に対する影響を考える前に、自社に関わる身近な従業員の持続可能性を考える
- 自社の企業活動を段階ごとに分けてSDGsと関連付けることにより、従事者が自分事にできるようにする
これからSDGsの取組みを検討される企業の方は、まずは自社の事業活動を見つめ直す切り口を増やし、どのような見え方ができるか考えてみてはいかがでしょうか。
その上で、SDGsとの関連性を考え、個別具体的に考えていくことで現実的な取組み施策につなげられるはずです。