2022年の第210臨時国会で、岸田文雄首相は所信表明演説において「リスキリング支援に1兆円を投じる」と表明しました。
政府がリスキリング支援を実施するのは、構造的な賃上げを実現するためです。
「リスキリング」という言葉が日本で注目され始めたのは、2021年2月ごろのことでした。SDGsとも深く関係する言葉であるため、取組みを考えるなら意味を知っておきましょう。
本記事ではリスキリングの意味やメリットデメリット、事例などを紹介しますので、ぜひご確認ください。
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- DXやGXを推進するためにはリスキリングが必要不可欠
- 成長市場へと労働力を移動するためにもリスキリングが重要
リスキリングとは?
リスキリング(re-skilling)とは、職業能力の再訓練・再習得を意味する言葉です。
近年では「リスキリング」自体が、自動化やグリーン対応で生じる仕事の転換で必要なスキルの習得を意味します。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
企業のDX戦略で新たに必要となる業務に対応できるよう、従業員がスキルや知識を再び身につけるのがリスキリングです。
日本では、GDPに対する企業の人的投資の比率が低い傾向にあります。その背景の1つとして挙げられるのが、非正規雇用の増加です。
非正規雇用労働者は、正社員と比べると教育を受ける機会自体が少ないのが一般的。しかし大きな社会の変化に対応していくためには、従業員全体に対するリスキリングが必要不可欠です。
リスキリングで従業員が新たな知識やスキルを身につけると、企業の持続的な成長にもつながります。
参照:「リスキリング」って何? 政府が5年で1兆円も投じるのはなぜ?<教えてQ&A>:東京新聞 TOKYO Web
参照:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―|リクルートワークス研究所
リスキリングとリカレント教育の違い
社会に出てからの学びを意味する言葉には、「リカレント教育」もあります。リスキリングとリカレント教育の大きな違いは、取組みの方法です。
リスキリング |
従業員が企業の戦略によって学ぶ機会を与えられる |
リカレント教育 |
従業員が仕事から離れて自ら大学や専門学校などで学ぶ |
リカレント教育では、従業員が休職などにより仕事から離れて自主的に学びます。しかしリスキリングでは、仕事に就いたままで学ぶことが可能です。
参照:リスキリングとは? 企業が取り組む意味や実施の手順、事例を紹介|【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル
グリーンリスキリングとは?
持続可能な社会において必要となるのが、話題となっているグリーンリスキリングです。
グリーンリスキリングとは、GX(グリーントランスフォーメーション)推進で必要となる再教育を意味します。
たとえば自動車整備工がEV整備工のスキルを習得するのも、グリーンリスキリングです。GXでは、グリーンエネルギーへの転換で経済を変革して、企業の成長につなげます。
グリーンリスキリングでも知られているのが、1人あたりのGDPが日本を上回っているシンガポールです。2015年、シンガポールではキャリアサポート制度『SkillsFuture Singapore』を始めました。
SkillsFuture Singaporeは、国民の生涯学習やスキル獲得を支援する取組みで、国民にも広く浸透しています。業種や職種を問わず、シンガポール国民もしくは永住権保持者は政府からの支援を受けることが可能です。
持続可能な社会を実現するためには、ビジネスモデルや事業戦略なども変わっていきます。その変化に追いつくためには、スキルの再習得が必要不可欠です。特にミドル世代は、今後も必要とされ続けるためのスキルを身につけなくてはなりません。
そのため日本でも、シンガポールのように国を挙げた支援が急務となっていくでしょう。
参照:シンガポールの生産性向上政策~SkillsFuture 等職業訓練施策を中心に~
参照:シンガポールの「スキルズフューチャー」に見る、 ミドル世代のリスキル | 電通総研
リスキリングによるメリットとデメリット
海外では、成長分野へと人材をシフトするため、2016年ごろからリスキリングの取組みが進められていました。
しかし日本では、これから国の支援を受けて推進されていく取組みです。
働き方の変化によって、今まで持っていたスキルや知識が通用しなくなる企業も多いでしょう。そんな状況の回避につながるのがリスキリングです。またDX・GX・SDGsを推進するためにもリスキリングが必要になります。
リスキリングによるメリットとデメリットには何があるのか、チェックしてみましょう。
リスキリングによるメリット
リスキリングによって得られる代表的なメリットには次の3つがあります。
- DXやGXに対応できる人材を育成できる
- コストが削減できる
- 技術的な失業を防げる
- 年収アップにつながる
リスキリングで従業員が新たな知識やスキルを身につけると、DXやGXの実現につながります。必要な人材を社内で育成できるなら、不足人材の新規採用や外注が減らせて、コストの削減も可能です。
社内での技術的な失業を防げるため、リスキリングは雇用を守るのにも役立ちます。政府が「構造的な賃上げ」を目的に支援することもあり、リスキリングは年収アップともワンセットです。年収アップが実現すれば、従業員のディーセントワークにもつながるでしょう。
全体的に見て、リスキリングは企業だけでなく従業員にもメリットの多い取組みです。
参照:リスキリングとは? 企業が取り組む意味や実施の手順、事例を紹介|【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル
参照:リスキリングとは|一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ
リスキリングのデメリット
リスキリングの代表的なデメリットは次の2つです。
- コストがかかる
- 自発性も求められる
高度なスキルを習得するには、企業側にコストがかかります。教育に十分なコストを掛けるのが難しいと感じる中小企業も多いでしょう。
受け身の姿勢では知識やスキルを習得するのが難しいため、リスキリングには自発性も必要です。
しかしデメリットがあるとしても、持続可能な経済にはリスキリングが求められます。コストを抑えるためにも、本当に必要な知識やスキルを見極めたうえで、リスキリングを検討していきましょう。
参照:リスキリングとは? 企業が取り組む意味や実施の手順、事例を紹介|【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル
参照:リスキリングとは|一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ
リスキリングの代表的な事例
日本でも取組みを始める企業が増えているものの、リスキリングで結果を出すのには、どうしても時間が必要です。
そこで世界的な2つの企業によるリスキリングを紹介します。
いずれも規模の大きい取組みではありますが、リスキリングの参考として内容をチェックしてみましょう。
リスキリングの事例 ①AT&T
リスキリングの先駆者として名高いのが、ワーナーメディアを傘下に置くアメリカのAT&Tです。
100年以上の歴史を持つAT&Tでは、過去に何度も再編や統合を繰り返してきました。しかし2008年には「未来の事業に必要なスキルを持つ人材は半数に過ぎない」と社内調査で判明したのです。
そこでAT&Tでは2013年からリスキリングのイニシアティブである「ワークフォース2020」を開始。2020年までに10億ドルを投資して、10万人のリスキリングを行いました。その結果、社内技術職の80%以上が社内異動で充足するようになったそうです。
またキャリア開発支援ツールの提供や、オンラインの訓練コースの開発・提供なども実施されています。
AT&Tでは透明性の高い取組みにより、社員の自主的なリスキリングを支援しているのが特徴です。プログラムに参加した従業員は評価も高く昇給も実現しており、離職率も低いことが判明しています。
リスキリングの先駆者であるだけでなく、成功者でもあるのがAT&Tです。実際にリスキリングに取組むのなら、ぜひAT&Tの例も参考にしてみましょう。
参照:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―|リクルートワークス研究所
参照:第4回 リスキリングの先駆者は何に取り組んだのか|研究プロジェクト|リクルートワークス研究所
リスキリングの事例 ②Amazon
世界的企業であるAmazonは、2019年7月に「2025年までに7億ドルを投じて従業員10万人をリスキリングする」と発表しました。2020年の為替レートで換算すると1人あたりにかける費用は約75万円です。
Amazonではリスキリングへの注力により、高度なスキルを持つ人材の育成を目指しています。具体的な取組みの例としては以下が挙げられます。
- Amazon Technical Academy……非技術系の人材を技術職へと移行する
- Machine Learning University……IT系エンジニアが高度なスキルを獲得する
多くの企業では、Amazonほどの投資を行うのは困難なもの。
しかしデジタルスキルの底上げをすると、企業は必要となる人材を社内から確保することが可能です。スキルアップが収入に反映されると、従業員はやりがいも得られるでしょう。
外注や新規雇用の必要もなくなり、ディーセントワークにもつながります。
参照:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―|リクルートワークス研究所
参照:第5回 海外で広がるリスキリングの取り組み|研究プロジェクト|リクルートワークス研究所
SDGsビジネスラーニングでリスキリングについて学ぼう
日本の企業でリスキリングが求められるのは、成長市場へ労働力を移動するためです。
労働市場の多くをサービス産業が占めている日本は国際競争力を失い、円安に苦しめられています。現状を乗り切るためには、成長市場への労働力の移動が必要です。時代の変化に合わせて、企業や従業員も成長を続けなくてはなりません。
リスキリングとも深い関係があるSDGsについて、本当に必要な知識を学ぶなら、SDGsビジネスラーニングを活用してみてはいかがでしょうか。SDGsに関する基礎知識から具体的な進め方まで、動画で効率良く学べます。
ビジネスで本当に使えるSDGsの知識を手に入れるなら、ぜひチェックしてみましょう。その上で足りない人材を補うために、具体的なリスキリングを進めていくことで企業と従業員の成長へとつながります。
SDGsビジネスラーニングについては以下のページでくわしく紹介していますので、導入の参考として内容をご確認ください。