SDGs(持続可能な開発目標)の目標1では「貧困をなくそう」を切り口に、あらゆる場所で起こるあらゆる形の貧困を終わらせることを目指しています。特に貧困の原因となっている社会保障の不十分さは、解決すべき社会課題の一つです。
本記事では、SDGsの目標1で定めている7つのターゲットとポイントを解説します。また、今後わたしたちが取組むべきこととクボタとユーグレナが既に取り組んでいる事例をあわせてご紹介します。ビジネスパーソンとしてSDGsへの取組み方を読み解くヒントをお伝えしていきますので、ぜひご覧ください。
【PickUp】「ツヅケル」が注目したビジネスパーソンがSDGsの目標1を読み解くポイント
- “貧困をなくそう”の具体的な取組みキーワードは「絶対的貧困をなくす」「相対的貧困をなくす」
- 企業が取組みやすいポイントは、ひとり親世帯のサポートと、子ども食堂の支援
- クボタ、ユーグレナの事例から読み解く、事業化へのヒント
SDGsの目標1「貧困をなくそう」の7つのターゲット
SDGsの目標1「貧困をなくそう」では、絶対的貧困と相対的貧困の解決を目指しています。特に、社会的に弱い立場にいる子どもや女性を守らなくていけません。
そもそも貧困は、主に開発途上国に多い「絶対的貧困」と先進国に多い「相対的貧困」の2種類に分かれています。絶対的貧困とは、一日約200円以下で生活している人のこと。相対的貧困とは、それぞれの国や地域の基準でみると、平均以下の苦しい生活をしている人のことです。
貧困は開発途上国だけではなく、先進国でも起こりうる問題です。
この目標を実現するには、2つの貧困をなくす必要があります。そのための具体的な対応の方向性として、7つのターゲットが設定されています。
【SDGsの目標1.貧困をなくそうの7つのターゲット】
- 1.1 2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。
- 1.2 2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる。
- 1.3 各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。
- 1.4 2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、全ての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。
- 1.5 2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する。
- 1.a あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する。
- 1.b 貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。
出典:SDGsとは?|JAPANSDGsActionPlatform|外務省
出典:SDGグローバル指標|外務省
SDGsの目標1「貧困をなくそう」が必要な理由
貧困をなくすためには、安定した生活環境や雇用確保を実現しながら、だれもが人間らしい生活を送れる社会の実現をしていく必要があります。
SDGsの目標1のターゲットの内容から、ビジネスパーソンとして押さえておくべき3つの要点をご紹介します。
【貧困をなくすべき3つの理由】
- 世界では6人に1人の子どもが毎日生きるのが精一杯だから
- 先進国でも貧困で苦しむ世帯があるから
- 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、極度の貧困がここ10数年で初めて増加したから
次から1つずつみていきましょう。
世界では6人に1人の子どもが毎日生きるのが精一杯
「世界の経済的貧困状態にある子どもたちの推計:最新情報」によると、極度の貧困状態で暮らしている人は7億960万人。そのうちの半分以上が子どもで、3億5,600万人いるといわれています。
つまり、世界でみると、6人に1人の子どもが毎日200円以下の生活を余儀なくされているのです。日本の物価で考えると、おにぎり2個すら買えない予算。この金額で1日の食事、光熱費、住居費、衣服代、医療費などをまかなわければいけません。それがどれだけつらく苦しいかは、容易に想像できるのではないでしょうか。社会的弱者である子どもの命を救う責任は、今の社会に求められています。
短期的に解決するには現金給付がいいかもしれません。しかし、一度使い切ったら、また貧困生活に逆戻りしてしまいます。現金給付だけではなく、社会保障制度やサポート体制を整えるなど、長期的な支援も必要ではないでしょうか。
出典:日本ユニセフ協会|子ども6人に1人が極度の貧困で暮らすユニセフと世界銀行による分析
先進国でも貧困で苦しむ世帯がある
世界の貧困状況を知ると、日本と貧困はあまり関係ないのではないかと感じた方もいるのではないでしょうか。しかし、日本も貧困問題を抱える国の一つ。なぜなら、貧困には「相対的貧困」があるからです。
実は、日本は7人に1人が相対的貧困といわれています。豊かなイメージがある日本も、1割以上の人が経済的に苦しい生活を送っています。特に、子どものいる世帯や母子家庭の方が、より「生活が苦しい」と感じている人が多いことも分かりました。
ひとり世帯の貧困を解決するためには、経済的自立ができる具体的な支援が必要です。
新型コロナウイルス感染症の影響で貧困が深刻化
東アジアや南アジアなど世界の地域によって、1990年代と比較すると貧困率が下がった国も多くあります。このまま改善されているかに思われたのですが、近年貧困人口が急増したといわれています。その原因は、新型コロナウイルス感染症の拡大。
国連の調査によると、新型コロナウイルス感染症の影響で、ここ数十年間で初めて、貧困人口が増加したことが明らかになりました。2020年だけで、新たに約1億2,000万人が極度の貧困に陥ったのです。各国政府は、対策として1,600件の短期的な社会保障措置を実施。しかしながら、いまだに40億人が社会保障を受けていないのです。
「だれ一人取り残さない」社会を叶えるためには、取り残された人への社会的なサポートが必要ではないでしょうか。
以上のように、SDGsの目標1「貧困をなくそう」の7つのターゲットから、絶対的貧困と相対的貧困の両方を解決することが目標の方向性であると分かります。
貧困をなくすための日本政府の取組み
日本は相対的貧困と向き合い、解決していかなければなりません。現在、日本政府はどのような取組みを行っているのでしょうか。今回は2つの事例を紹介します。
- ひとり親世帯への支援
- 子ども食堂の運営
では、それぞれみていきましょう。
日本のSDGs取組み事例①:ひとり親世帯への支援
2020年11月の厚生労働省の調査によると、日本には「母子家庭が123.2万世帯」「父子家庭が18.7万世帯」も存在します。そして、母子家庭の平均年収は243万円、父子家庭の平均年収は420万円でした。
国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査」によると、日本人の平均年収は約433万円。これらの数字からみても、ひとり世帯の年収は平均以下の場合が多いことが分かりますよね。
そのため、日本政府は、ひとり世帯に向けて自立支援を実施。「母子・父子の自立支援員配置」「生活や育児の支援実施」「児童扶養手当の支給」など、多面的にサポートできるように努めています。
また、民間と連携し、就業支援を含めた専門的な相談窓口を設置。「ハローワークへの同行支援」「雇用後のアフターフォロー」などを実施しています。
ひとりで家族を支えるひとり世帯だからこそ、「社会とつなぐ」ことを重視していました。企業としてもバックアップできるチャンスでもあります。一人で抱えなくていい環境がある社会こそ、豊かな社会といえるのではないでしょうか。
日本のSDGs取組み事例②:子ども食堂の運営
自治体や地域住民が中心となって、子ども食堂の運営も実施しています。子ども食堂とは、無料もしくは低価格で子どもたちに食事を提供するコミュニティの場です。貧困や栄養不足の問題解決だけでなく、孤独を感じる子どもの心のケアも期待できます。
けれども、運営の輪が広まっている一方で、「スタッフ不足」「運営費の確保」「場所の確保」などの問題も生じています。行政は助成金を出していますが、さらなるサポートが必要といえるでしょう。また、企業としても運営費や食材を寄付したり、場所を提供したりすることは可能かもしれません。次の章でくわしくみていきましょう。
貧困をなくすためにわたしたちにできること
日本政府も支援する「子ども食堂」。実は、個人や企業としての支援もできます。例えば、「NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」は厚生労働省も応援する機関の一つです。むすびえは、誰もとりこぼされない社会を日本でつくりたいという思いを持って、子ども食堂の運営をサポートしており、現在も個人や企業からの寄付を必要としてます。
個人としてできる寄付は以下の通りです。
- 月1,000円から クレジットカードで寄付をする
- 銀行振り込みで寄付をする
- Tポイントで寄付をする
- 使わなくなったアクセサリーやブランドバッグ、骨董品などを寄付する
- 読み終わった書籍、DVDで寄付をする
このように、現金だけではなくさまざまな方法で応援できることが分かります。
さらに、企業が寄付する場合は以下の方法があります。
①企業サポーター制度
- 10万円からのスポンサーシップあり
- 全国のこども食堂を応援する様々なプログラムを一緒に実施
②商品・サービスを通じた支援
- 各企業の製品やサービスなどを活用した支援
- オフィスの自動販売機を当団体への寄付付き自動販売機に切り替える
③プロボノ・ボランティア
- 各企業の製品、プロフェッショナルなスキル、施設の一時提供などを現物支給
- ビジネスで培った優れた商品力やノウハウをむすびえの活動に活かせる
- こども食堂でのボランティア活動も可能
④マッチング寄付
- 社員個人の寄付に対して、所属する企業がマッチング(同額を上乗せ)して寄付
- 企業の社会貢献活動の促進と、社員の社会貢献活動を企業が応援することが両方可能
- 社会貢献度を最大化するプログラム
このように、個人だけではなく企業も参加できるのも特徴の一つ。特に企業は、自社理念やブランド力をいかし、経済的な発展と社会貢献の両立を叶えられるといます。将来の担う子どもたちの笑顔のために、自社でできる支援を検討してみてはいかがでしょうか。
写真(De Visu / Shutterstock.com)
SDGsの目標1に基づく企業の取組み事例:クボタ
貧困をなくすためには、社会への影響や責任の大きい企業においても積極的に取組むことが求められます。
クボタは“For Earth, For Life”のブランドステートメントを掲げ、美しい地球環境を守りながら、私たちが豊かに暮らせる社会づくりに貢献することを約束しています。
「食料・水・生活環境」を3本柱とし、最先端技術を投入し循環させることで、持続可能な社会を創ることを目指しています。
具体的には、以下の内容に取組んでいます。
- 最新技術を活用した持続可能な食料生産
- 子どもたちを対象とする食育支援
クボタのSDGs取組み事例①:最新技術を活用した持続可能な食料生産
クボタではSDGsの目標1「貧困をなくそう」を掲げて、食料分野への取組みが進められています。取組みは多岐に渡っていました。
- IoTを導入したコンバインやトラクターなどの農業機械の開発
- 農産物の付加価値を見える化する品質測定技術
などが導入されてきました。
農業全体の問題を考慮することは大規模な開発やシステムなどが必要になりますが、創業当初から農業機械の開発に力を入れてきた企業として、クボタがこの分野をさらに開拓し、力を入れていこうとしているかがうかがえますね。
高齢者問題や農業の大規模化など、人手不足が顕著な農業分野ですが、国内のみならず世界中でクボタが培ってきた農業機械の技術が今後さらに必要とされるのではないでしょうか。
クボタのSDGs取組み事例②:農産物の加工や販売をサポート
機械の開発や製造だけではなく、農産物の加工や販売を支援しています。
- 農産物を製造する際の各工程のサポート
- 玄米使用のパンやパスタの開発
このように、農業全般のソリューションを担う取組みも行われています。
SDGsの目標1に基づく企業の取組み事例:ユーグレナ
ユーグレナでは2020年の創業15周年を機に、「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を制定。サステナビリティを実現するために、8つの重要課題を特定しました。
- 生涯にわたる健康の実現
- 気候変動への具体的な解決策
- 発展途上国の栄養不良の解消
- 持続可能な商品供給の実現
- 持続的な環境負荷低減
- 多様な人材が自由に働ける職場づくり
- 経営基盤の強化
- ステークホルダー・エンゲージメント
特に、目標1の達成に向けて、以下の内容に取組んでいます。
- バングラデシュにおける貧困農家の収入増と難民への食糧支援
- ユーグレナGENKIプログラム
ユーグレナのSDGs取組み事例①:バングラデシュにおける貧困農家の収入増と難民への食糧支援
ユーグレナは、バングラデシュの貧困農家に緑豆の栽培ノウハウを伝授。そのうえで収穫された緑豆を高値で購入して半分を日本に輸出し、残りを現地の貧困層に原価で販売しています。さらに国連世界食糧計画との連携により、ミャンマー・ラカイン州から避難したロヒンギャ難民へも食糧を供給しました。ロヒンギャ難民支援を官民連携で実践したのは、ユーグレナが初です。
収入源と食料の支援は、SDGsの目標1「貧困をなくそう」に該当します。この取組みにより、ユーグレナは第5回ジャパンSDGsアワードでSDGs推進本部長を受賞しました。
現地の貧困を救うために、地産地消に取組むのは将来性や持続性があるロールモデルです。単に食料を配布するだけでは、その先に続けられません。目先の支援だけでなく、現地の人々の経済的自立を支援する取組みを模索してみてはいかがでしょうか。
参照:ユーグレナ社、第5回ジャパンSDGsアワードにて「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞しました | 株式会社ユーグレナ
ユーグレナのSDGs取組み事例②:ユーグレナGENKIプログラム
ユーグレナでは、パートナー企業3社とともに2014年4月から「ユーグレナGENKIプログラム」を開始。プログラムでは、栄養豊富なユーグレナ入りクッキーをバングラデシュの子どもたちに無償配布しました。さらに、指定商品の売り上げから一部が、プログラムの運営費用にあてられています。
2022年3月末までの段階で「13,250,263食分のクッキー」がバングラデシュに届けられました。同時に子どもたちへ食育や衛生教育なども実施しています。
この取組みは、貧困で栄養不足の子どもたちを救うことにつながるだけでなく、食事や衛生について教育することで、子どもが自分で自分の体を守るスキルを与えることになるため、とても価値ある支援といえます。
自社の取組みを拡大するためには、ユーザーや他社を巻き込むことが大きな鍵です。ユーグレナの事例をみると、企画意図への賛同が得られると、他社との協働も可能であることが分かりました。SDGSに関連づけて異業種と連携できれば、新事業の幅も広がるのではないでしょうか。持続可能とするためにも、自社の枠を超えた取組みを検討してみてはいかがでしょうか。
SDGsの目標1から考える持続可能なビジネスへのヒント
SDGsの目標1「貧困をなくそう」では、絶対的貧困と相対的貧困を解決する国際的な取組みが求められています。
改めて、SDGsの目標1の実現に求められている要点は、以下3点です。
- 一日200円以下の生活が余儀なくされる絶対的な貧困層を長期的な視点から支援
- 相対的な貧困に苦しむ人が社会的自立ができるようにサポートする
- パンデミックや紛争などにより経済的ダメージを受けた方への社会保障拡充
自社の本業が食に関係する製品やサービスを提供している場合は、今回ご紹介した子ども食堂支援につながる直接的な取組みができるでしょう。自社の製品やノウハウで子どもたちの笑顔を生み出せるかもしれません。
一方、飲食店や食品メーカーなどの場合は、子ども食堂の場所提供やボランティア活用にトライしてみてはいかがでしょうか。はじめは抵抗があるかもしれません。しかし、社員一人ひとりの価値観が広がるチャンスでもあります。SDGsに積極的に取組まれている企業事例を読み解くことで、一見関わりのない貧困をなくすことにつながるヒントが見えてくるはずです。
また「ひとり親世帯」の働き方改革や採用の検討も実施可能な事例の一つ。社員の多様化や価値観の広がりは企業が持続的に成長するために欠かせない要素です。ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
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