文字の読み書きや計算を学ぶ機会が与えられない子どもたちが、世界には大勢います。そのまま大人になり限られた仕事しか選択できず、安定した収入を得られない、最低限の収入しか得られないため、貧困から抜け出せない人も少なくありません。
その状況を改善するために設けられているのが、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」です。
本記事では、世界や日本での教育の現状とSDGsの目標4達成へのヒントを解説します。子どもたちが質の高い教育を受けられない背景には、戦争・文化・慣習などもあるため、決して簡単に解決できるものではないでしょう。しかし切り口を変えて考えると、企業でも取組みは可能です。マクドナルドなどの企業の取組み事例を紹介し、SDGsへの取組み方を読み解くヒントをお伝えしていきますので、ぜひご覧ください。
【Pick Up】「ツヅケル」が注目したビジネスパーソンがSDGsの目標4を読み解くポイント
-
SDGsの目標1「貧困をなくそう」を達成するためにも目標4は重要
-
学校教育以外でも目標4に対するアプローチは可能
SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」10のターゲット
SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」は、2030年までにすべての男女が無償で初等・中等教育を修了することを大きな目標として掲げています。
目標の実現に向けて設定されているのが、以下10個のターゲットです。
【SDGsの目標4.質の高い教育をみんなに 10のターゲット】
- 4.1 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする。
- 4.2 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達支援、ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする。
- 4.3 2030年までに、すべての人々が男女の区別なく、手頃な価格で質の高い技術教育、職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。
- 4.4 2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。
- 4.5 2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。
- 4.6 2030年までに、すべての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする。
- 4.7 2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。
- 4.a 子ども、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、すべての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。
- 4.b 2020年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国、ならびにアフリカ諸国を対象とした、職業訓練、情報通信技術(ICT)、技術・工学・科学プログラムなど、先進国及びその他の開発途上国における高等教育の奨学金の件数を全世界で大幅に増加させる。
- 4.c 2030年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国における教員養成のための国際協力などを通じて、質の高い教員の数を大幅に増加させる。
SDGsの目標4は「教育」が大きな課題です。しかし世界的に見ると、質の高い教育どころか、教育を受ける機会すら得られない子どもが多い現状となっています。
10のターゲットで示されているのは、人々が教育を受けるための具体的な目標や対策です。取組みを検討する前に、まずはターゲット内容を把握しておきましょう。
SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」が必要な理由
SDGsの目標4では「すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」が大きなテーマとなっています。
質の高い教育が必要だと考えられる特に大きな理由は以下の2つです。
- 貧困から抜け出せる
- 危険から身を守れる
教育が命や貧困に与える影響について見ていきましょう。
貧困から抜け出せる
質の高い教育が必要なのは、貧困から抜け出すためです。
文字の読み書きや計算ができないと、安定した収入を得るのは難しいでしょう。技術教育や職業教育などを受けるためにも、文字の読み書きや計算などの基礎的な知識は必要です。
安定した収入がなく家庭を持つと、生まれた子も貧困からのスタートになります。負の連鎖から抜け出すためにも、すべての人が質の高い教育を受けるのが理想です。
日本も決して例外ではありません。年収200万円以下の家庭での大学進学率は約28パーセント。しかし年収1,200万円以上の家庭では、大学進学率62パーセントとのデータがあります。
学歴別の生涯所得は次の通りです。
中学卒 | 高校卒 | 短大・高専卒 | 大学・大学院卒 | |
男性 | 2 億円 | 2 億 1 千万円 | 2 億 2 千万円 | 2億 7 千万円 |
女性 | 1 億 5 千万円 | 1 億 5 千万円 | 1 億 8 千万 | 2 億 2 千万円 |
中学卒と大学・大学院卒では、7000万円の違いが出ます。勉強が嫌いではないとしても、世帯収入により進学の機会が得られないと、その後の収入も上げにくいのが現実なのです。
教育問題は貧困問題とも大きく関係するもの。ワーキングプアの問題も日本では大きく取り上げられています。SDGsの目標4は、目標1の「貧困をなくそう」にも大きく関係します。すべての目標を達成するためにも、質の高い教育は必須だといえるでしょう。
出典:04.質の高い教育をみんなに | SDGs one by one
出典:第3章 2.2.(5)高等学校等卒業後の進路の状況|平成28年度 子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究 報告書 |内閣府
出典:21 生涯賃金など生涯に関する指標|ユースフル労働統計 2021
危険から身を守れる
質の高い教育が必要な理由の1つが、危険から身を守れることです。
世界には文字の読み書きができない人が、7.5億人以上存在しています。読み書きができないのは、適切な教育を受けられなかったためです。
薬品を始め、世の中には取り扱いに気をつける必要のあるものが多数存在します。しかし読み書きができなければ「危険」と書かれていても分からないでしょう。ハザードシンボルが描かれているものばかりではないからです。状況によっては命にも関わります。
「触ってはいけないもの・入ってはいけない場所」などを知るのは、命を守るうえで重要です。また読み書きができないまま書類を取り交わしてしまうと、悪意ある人物に騙されてしまう可能性もあります。すべての人が危険から身を守るためには、読み書きや計算などを始めとする教育が必要なのです。
子どもたちが教育を受けられない理由
日本は小学校・中学校が義務教育であるため、最低でも9年間は学校に通います。義務教育により識字率も充分に高く、調査の必要性もないことから近年は公的なデータも存在していません。しかし世界では6~11歳の子どものうち8パーセントは学校に通っていない状況です。
2018年時点、初等教育就学年齢(小学校学齢期:一般的には6歳から11歳)の子どもたちの8%(=約12人に1人)にあたる約5,900万人が学校に通っていない。
引用元:ユニセフの主な活動分野|教育|日本ユニセフ協会
子どもたちが学校に通えない特に大きな理由として考えられるのが、以下の5つです。
- 地域に学校がなく教師もいない
- 家計や家族を助けるために働かなくてはならない
- 戦争や紛争の影響を受けている
- 親が教育は不要だと考えている
- 病気で治療も受けられない状態である
国により、子どもたちが置かれている状況には大きな違いがあります。それぞれの理由について見ていきましょう。
戦争や紛争の影響を受けている
子どもが学校に通えない理由の半数が、戦争や紛争の影響を受けているというものです。戦争や紛争があると、学校に通える状況ではありません。
カンボジアでは1970年代に政権が教育を禁止し、学校施設や教材がすべて失われました。内戦が終わってから30年以上が過ぎても、その影響は少なくありません。カンボジア以外にも多くの国が戦争や紛争の影響を受けています。特にアフリカでは、今も多くの国・地域で戦争状態や緊張状態が続いています。
子どもたちが安心して質の高い教育を受けるためには、まず戦争や紛争のない世界を作らなくてはなりません。
出典:ユネスコ世界寺子屋運動 2020年度活動報告
写真(Africa Center for Strategic Studies|Infographics)
学校がなく教師もいない
地域によっては「学校がなく教師もいない」といった状況もあります。
学校がない状況の改善を目指して、ユネスコでは1989年から「世界寺子屋運動」を実施しています。世界寺子屋運動は、書き損じはがきなど身近なものや寄付を集め、回収で得られた現金や寄付金を以下の国に送る運動です。
- アフガニスタン
- カンボジア
- ネパール
- ミャンマー
支援は行われているものの、まだ学校がなく教師もいない地域が多い状況にあります。今後も各地への継続した支援が必要不可欠です。
家計や家族を助けるために働いている
家計や家族を助けるために働いている子どもも少なくありません。後発開発途上国では、22%が児童労働に従事しています。
経済的に困窮している家庭では、子どもも労働力として大きな役割を担う存在です。弟妹の世話をする・外に働きに出るなど、状況は各家庭により違っています。
国が授業料の無償化を行っていても、制服や勉強道具などは自費負担が一般的です。その費用を出すのが難しいという家庭もあります。
子どもに質の高い教育を与えるためには、まず各家庭への支援も必要です。
親が女児の教育は不要だと考えている
文化や慣習により、親が「女児の教育は不要」と考えている地域も多く見られます。
国の文化や慣習により、児童婚を強制される女児は少なくありません。UNICEFによると世界では、現在生存している推定6億5,000万人の女の子と女性が18歳の誕生日を迎える前に結婚したそうです。また、毎年1,200万人が、子供のうちに結婚していると推定されています。
セーブ・ザ・チルドレンの調査によると、年間約2万2,000人以上の少女が、児童婚による妊娠や出産で亡くなっています。
そもそも結婚するので学校に通う必要がないという考えのもと、教育を受けることなく母になっていく人や、たとえ学校に通っていたとしても、結婚や妊娠で中退する例も多いのが現状です。「女の子に教育は不要」との考えは、SDGsの目標4達成の大きな壁です。国や慣習、文化に関わらず、すべての子どもが教育を受けられる環境づくりが求められます。
出典:児童婚| ニュースバックナンバー2019年|日本ユニセフ協会
出典:学校に通えない子どもたちは世界にどのくらいいるでしょうか?その理由と問題について紹介します|セーブ・ザ・チルドレン
貧困により病気の治療も受けられない状態である
貧困により病気の治療も受けられず、学校に通える状況にない子どももいます。
5歳未満で命を落とす子どもの数は、年間で推定500万人(2020年現在)。主要な原因は、早産の合併症、出生時仮死 / 外傷、肺炎、下痢、マラリアと、治療で回復できる見込みが高い病気です。また、死亡原因の45%は栄養不良が影響しています。
子どもたちが教育を受けられる環境を整えるには、病気になっても治せる環境も必要です。
Child mortality (under 5 years)|Detail|Fact sheets|Newsroom|WHO
「質の高い教育をみんなに」を達成するための日本政府の取組み
日本政府では、質の高い教育の実現のために「みんなで支えるみんなの学び(Learning for All, All for Learning)」をビジョンとして掲げています。
「みんなで支えるみんなの学び」で推進の対象となるのは、学校教育だけではありません。国内外に及ぶ、乳幼児のケア・教育から生涯学習までが対象です。
- 女子教育支援
- ノンフォーマルな教育への支援
代表的な取組みである上記2つについて、概要を見ていきましょう。
日本のSDGs取組み事例①女子教育支援
日本では2013年から「すべての女性が輝く社会」を提唱しています。
そのために重点を置いているのが以下のポイントです。
- 女子の就学・修了率の向上
- 教育と就業への連結
- 母子保健等の教育
教育の機会が多いと思われる日本でも、ジェンダー格差が見られます。
日本の進学率についての現状は、以下の通りです。
女子教育支援は、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」目標8「働きがいも経済成長も」などにもつながります。
日本でも、かつては「女性に教育は不要」との考えが一般的でした。当時から見れば、状況は大きく変わったともいえます。それでも修士課程における女性の少なさで見ると、日本は先進国でワーストです。教育の違いは、賃金の格差へとつながっていくもの。今後も継続した取組みが必要となるでしょう。
参照:教育の男女格差、なぜ生まれる? 現状と問題点、専門家に聞く|学習と健康・成長|朝日新聞EduA
日本のSDGs取組み事例②ノンフォーマル教育への支援
日本政府では、ノンフォーマル教育への支援を行っています。ノンフォーマル教育とは、フォーマル教育(学校教育)の枠に当てはまらない教育のことです。十分な教育を受けられない層(不就学児童・成人など)が主な対象で、保健衛生環境や自然環境保全において、重要な役割を果たします。
不就学児童が多いため、読み書きのできない人がパキスタンには大勢います。そこで外務省では、基礎学力・識字率をつけるための学習機会の提供を開始しました。さらに女児・女性に対し、社会参加促進や生活ニーズに対応した学習支援も行っています。ノンフォーマル教育への支援は、SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」にも該当する多面的な取組みです。
日本では戦後に高度経済成長を迎えています。長い目で見ると平和にもつながるのが、他国への教育支援です。多くの課題を克服してきた日本の経験は、他国にとって役立つものとなるでしょう。
参照:第2章 ノンフォーマル教育に対するアプローチ - JICA
写真(Gonzalo Bell / Shutterstock.com)
SDGsの目標4に基づく企業の取組み事例
SDGsの目標4に基づく企業の取組みとして、マクドナルドと日本生活協同組合連合会の事例を紹介します。
それぞれについて内容を確認していきましょう。
マクドナルドの取組み事例:食育支援
マクドナルドでは2005年に小学校での食育支援を目的とした「食育の時間」を開発、2019年には「食育の時間+(プラス)」としてリニューアルしました。この取組みは、子どもたちが「食」への正しい知識と習慣を身につけるためのものです。
食に関する正しい知識は、子どもたちの成長にも影響するでしょう。健やかに子どもを育てるのは、未来社会に対する大きな取組みです。それだけでなく、子ども時代に食べたものは大人になっても記憶に強く残ります。SDGsの目標4を通じて、マクドナルドは、自社の将来的な顧客と成り得る子どもたちに強い印象を残していると考えられるでしょう。
日本生活協同組合連合会の取組み事例:子どもの未来アクション
日本生活協同組合連合会では、「子どもの未来アクション」という取組みを進めています。これは、子どもの「貧困の連鎖」を断ち切るための取組み。子どもの貧困を解決したいと思う人たちは「子どもの未来アンバサダー」として、子どもの未来アクションの学習ツールを活用しながら学習会を開催し、地域内に支援ネットワークを広げていく活動を進めています。これは「貧困をなくそう」に沿った取組みではありますが、「質の高い教育をみんなに」にも関わってくるものです。
学校教育に限定してしまうと、教育分野に直接関係ない企業にとってSDGsの目標4はハードルが高いもの。しかし学校教育に限定して考える必要はありません。マクドナルドのように食育分野に乗り出す、日本生活共同組合連合会のように、別のテーマに絡めながら地域教育を進めていくのも方法の1つです。また技術教育・職業教育・生涯学習でのアプローチを考えてみると、可能な取組みの幅は広がるでしょう。自社のSDGs活動を考えるにあたり、広い視野で教育について考えてみてはいかがでしょうか。
SDGsの目標4達成のために企業ができること
教育と聞くと、子どもや学校教育を連想しがちです。しかしSDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」では、すべての人々に対して、質の高い教育を確保し生涯学習の機会を促進することが掲げられています。大きなポイントとなるのは、対象となるのがすべての人であり、生涯学習も盛り込まれている部分です。
日本の教育現場においては、インターネット環境の未整備による情報化の遅れが課題として指摘されています。さらに不登校児童の増加も大きな課題として挙げられるでしょう。
自社の事業について「教育とは関係のない事業だから」と考える方も多いでしょう。しかしSDGsの目標4は、教育関連の事業以外でも取組み可能です。
対象を子どもや学校教育に限定すると取組みの糸口は見つけづらくなります。食育や生涯学習など、取り組める手段は少なくありません。事業内容が通信関連なら、インターネット関連での取組みもできるでしょう。ステークホルダーとの協業で教育問題に取り組むのも良いかもしれません。
対象を限定せず、どのような学習の機会を人々に与えられるのか、自社の取組みについて検討してみてはいかがでしょうか。
因みにツヅケル編集部が推奨するビジネスパーソンのための「SDGsビジネスラーニング」ではこれらの内容を動画(eラーニング)で視聴することができます。月200円~/人で視聴できる企業研修。サービス開始2か月で1.6万人が受講したeラーニングを是非ご覧ください。