SDGs(持続可能な開発目標)の目標5では「ジェンダー平等を実現しよう」を切り口に、「性別による差別をなくす」「女性や女の子を暴力や有害な習わしから守る」「女性の教育や働き方の改善」を目指しています。
本記事では、SDGsの目標5で定めている9つのターゲットとポイントを解説します。また、今後わたしたちが取組むべきことと楽天とコカ・コーラが取組んでいる事例をあわせてご紹介します。ビジネスパーソンとしてSDGsへの取組み方を読み解くヒントをお伝えしていきますので、ぜひご覧ください。
【Pick Up】「ツヅケル」が注目したビジネスパーソンがSDGsの目標5を読み解くポイント
- “ジェンダー平等を実現しよう”の具体的な取組みキーワードは、「女性や女の子へのすべて差別をなくす」「女性や女の子を暴力や有害な習わしから守る」「女性の教育や働き方の改善」
- 企業が取組みやすいポイントは、女性が働きやすい環境整備
SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の9つのターゲット
SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」では、ジェンダー平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを高めることを目指しています。
この目標を実現するため、9つのターゲットが設定されています。
【SDGsの目標5.ジェンダー平等を実現しようの9つのターゲット】
- 5.1あらゆる場所における全ての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。
- 5.2人身売買や性的、その他の種類の搾取など、全ての女性及び女児に対する、公共・私的空間におけるあらゆる形態の暴力を排除する。
- 5.3未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚及び女性器切除など、あらゆる有害な慣行を撤廃する。
- 5.4公共のサービス、インフラ及び社会保障政策の提供、並びに各国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する。
- 5.5政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する。
- 5.6国際人口・開発会議(ICPD)の行動計画及び北京行動綱領、並びにこれらの検証会議の成果文書に従い、性と生殖に関する健康及び権利への普遍的アクセスを確保する。
- 5.a女性に対し、経済的資源に対する同等の権利、並びに各国法に従い、オーナーシップ及び土地その他の財産、金融サービス、相続財産、天然資源に対するアクセスを与えるための改革に着手する。
- 5.b女性の能力強化促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する。
- 5.cジェンダー平等の促進、並びに全ての女性及び女子のあらゆるレベルでの能力強化のための適正な政策及び拘束力のある法規を導入・強化する。
SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の主な目的は、「女性や女の子へのすべて差別をなくす」「女性や女の子を暴力や有害な習わしから守る」「女性の教育や働き方の改善」です。9つのターゲットは、上記の3つの目的を実現するための具体的な対応の方向性として明記されていることを理解しておくとよいでしょう。
出典:UNITAR Hiroshima
出典:SDGsとは?|JAPANSDGsActionPlatform|外務省
出典:SDGグローバル指標|外務省
SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」が必要な理由
ジェンダーによる差別をなくすためには、ジェンダー平等を実現しながら、女性の教育や働き方を改善していく必要があります。
SDGsの目標5のターゲットの内容から、ビジネスパーソンとして押さえておくべき3つの要点をご紹介します。
【ジェンダー平等を実現すべき3つの理由】
- 暴力や有害な習わしで苦しむ女の子や女性が多くいるから
- 性別による教育格差をなくすべきだから
- 持続可能な経済成長には女性の社会進出が欠かせないから
では、1つずつみていきましょう。
暴力や有害な習わしで苦しむ女の子や女性が多くいる
世界には暴力や有害な習わしで苦しむ女の子や女性が多く存在しています。実際に女性の3人に1人が生涯で一回以上、身体的暴力または性的暴力を経験したということがわかりました。つまり、2000年から2018年の間で7億3,600万回もの暴力が起こったことになります。
このように、立場の弱い女の子や女性が被害にあっている現状を一刻も早く変えなければなりません。
さらに、女性を苦しめる有害な習わしもいまだに残っています。実は、女性器切除の慣行がある国は30カ国以上。国連の調査によると、15歳から19歳である少女の3分の1がこの処置の対象となったことが分かりました。
目標5は、女性が性と生殖に関する健康とその権利を持つものであることを確実にし、暴力や有害な習わしから守るためにも必要なのです。
性別による教育格差をなくす
性別による教育格差も解決しなければなりません。日本でも、医学部の入試で女子学生の合格者数が制限されていたことが問題になりましたよね。
6歳から11歳の子どものうち、一生学校に通えない女の子は男の子の約2倍。十分な教育を受けられなければ、将来への可能性も奪われてしまうことは容易に想像できるのではないでしょうか。
さらに、早期結婚によって教育の機会を奪われている場合もあります。
世界でみると、18歳になる前に結婚した女性や女の子は6億5000万人。毎年1200万人が子どものうちに早期結婚しているといわれています。
もっとも広く行われている地域は南アジアで、世界の児童婚の44%(2億8500万人)を占めています。
つまり、女の子や女性へ教育の機会は平等に与えられず、人生の選択肢がないがために、自分らしく生きられない現状があるのです。すべての人が自分らしく生きるためにも、ジェンダー平等は必要不可欠ではないでしょうか。
持続可能な経済成長には女性の社会進出が欠かせない
持続可能な経済成長には女性の社会進出が欠かせません。「女性だから」という理由で働くことを制限させられたり、管理職から外されたりすることが問題になっています。
女性が労働に全面的に参加すれば、どのような未来になるのでしょうか。実は、多くの国で成長率は数パーセント上昇するといわれています。この上昇幅が2ケタになることも期待できるそうです。
上記の資料は、各国における男女格差を測る「ジェンダーギャップ指数」のランキング。2021年3月、世界経済フォーラムが「TheGlobalGenderGapReport2021」を公表しました。
ジェンダーギャップ指数は、「経済」「政治」「教育」「健康」の4分野のデータから作成された指標です。0が完全不平等、1が完全平等を意味しています。
ちなみに、2021年の日本の順位は156か国中120位。前回と比べて、スコア、順位ともに、ほぼ横ばいでした。これは、先進国の中で最低レベルです。例えば、女性の国会議員の割合は他の国と比べても、圧倒的に少ないのが現状。日本は世界で165番目と、最下位グループに属しています。残念ながら女性の議員は、全国会議員の10%未満。これでは、世の中の女性の声が政治に反映されません。
また、管理職になる女性が少ないのも日本の課題。この数字からも、女性が働きづらい環境であることが分かるのではないでしょうか。
このように、開発途上国だけではなく、先進国も女性のエンパワーメントを高める必要があります。結婚や出産を経てライフステージが変わっても、働きがいを感じられる社会の実現が求められているのではないでしょうか。
以上のように、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の9つのターゲットから、女の子や女性に対する差別をなくすこと、エンパワーメントを図ることなどの目標の方向性が分かります。
出典:The State of Food and AgricultureThe Food and Agriculture Organization
出典:みんなで目指す!SDGs × ジェンダー平等|内閣府男女共同参画局
ジェンダー平等を目指す日本政府の取組み
日本は他国と比べても、女性管理職や女性国会議員の割合が少なく、女性が活躍する社会とは言いづらいことが分かりました。日本政府は、ジェンダー平等を目指すために、どのような取組みをしているのでしょうか。2015年から日本政府は「女性が輝く社会」の実現に力を入れています。今回は、2つの事例を紹介します。
- 女性のエンパワーメント推進のための大きな資金拠出
- 第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ
では、それぞれみていきましょう。
日本のSDGs取組み事例①:女性のエンパワーメント推進のための大きな資金拠出
2015年、国連女性機関(UN Women)はジェンダー平等と女性のエンパワーメントを図る日本事務所を東京に開設。同年のUN Womenへの拠出額が加盟国中第5位となるなど、国連との連携も一層強化しました。
さらに、日本政府は2016年に開催された3回目の国際女性会議WAW!において、開発途上国の女性たちの活躍を推進するため、2018年までの3年間で総額約30億ドル以上の支援を行う旨を表明し、着実に実施しました。
大きな資金拠出ではありますが、女性が輝く未来への投資といえるのではないでしょうか。
出典:第2節 男女共同参画に関する分野における国際的なリーダーシップの発揮| 男女共同参画白書 平成29年版|内閣府
出典:第2節 男女共同参画の視点に立った国際貢献| 男女共同参画白書 平成29年版|内閣府
日本のSDGs取組み事例②:第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ
日本政府は、日本のジェンダーギャップが先進国で最低水準。その要因は、女性議員比率の低さに代表される政治分野の取組みの遅れと、管理職の女性比率の低さに代表される経済分野の取組みの遅れであると考えられます。
この状況を改善するため、内閣府は2019年12月に「第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~」を閣議決定しました。下記の通り、具体的な数値目標を定めたのです。
具体的な目標があることで対策もたてやすくなります。すべての働きたい人が性別や立場に関わりなく、個人の能力を十分に発揮しながら働ける環境づくりが必要です。その実現には、
- 男性が子育て等に参画できるような環境整備
- 職場や就職活動における各種ハラスメントの防止
- 男女間賃金格差の解消
などの問題解決を一刻も早く進めていく必要があるといえるのではないでしょうか。
ジェンダー平等のためにわたしたちができること
ジェンダー平等のためにわたしたちにできることの1つとして、女性が働きやすい環境をつくることがあります。
女性が働きやすい環境に欠かせないのが、家事や育児の分担。実は、日本女性は他の国に比べるとダントツで家事や育児に費やす時間が多くなっています。逆をいえば、男性が家事や育児をする時間がとても少ないのです。
日本には、「家の仕事は女性がするもの」という文化がまだ根強く残ってしまっているのではないでしょうか。
共働き女性の話を聞いていると、夫からの「家事を手伝おうか?」という言葉に疑問をいだく方が多いと感じます。たしかに、本来なら妻が主体で家事をすることは法律で決まっていません。得意不得意はあると思いますが、「手伝うのではなく、共同作業である」という意識へ変えていくべきではないでしょうか。
一人ひとりが固定概念を捨てて、考え方をアップデートすることは女性が働きやすい社会につながるのではないでしょうか。
これは各家庭だけではなく、政府や企業が取り組む行動といえます。
日本政府も令和2年度から子どもが生まれた男性職員が、1か月以上ほど育休を取得できることを目指しています。
さらに、女性が活躍する企業を「なでしこ銘柄」と選定する活動も実施しています。
経済産業省は、「なでしこ銘柄」について以下のように説明しています。
なでしこ銘柄とは、「女性活躍推進」に優れた上場企業を「中長期の企業価値向上」を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介することを通じて、企業への投資を促進し、各社の取組みを加速化していくことを狙いとしています。
企業は、女性が働きやすい環境を整えるとともに、女性がリーダーシップを発揮できる職場の実現を目指すことが求められています。ジェンダー平等による多様性は、ビジネスにおける創造性にもつながります。企業の経済的成長のためにも「なでしこ銘柄」の選定を目標の一つにしてみてはいかがでしょうか。
出典:男性職員による育児に伴う休暇・休業の取得促進|内閣官房
SDGsの目標5に基づく企業の取組み事例:楽天
ジェンダー平等の実現には、社会への影響や責任の大きい企業においても積極的に取り組むことが求められます。
楽天では、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」に基づき、女性の働き方改革に取り組んでいます。
具体的には、以下の内容に取り組んでいます。
- LGBTQ従業員のサポート
- 長く働き続けられる労働環境の整備
楽天のSDGs取組み事例①:LGBTQ従業員のサポート
楽天では、多様な従業員の尊重・サポートを重視しています。「従業員と共に成長」をモットーに、従業員のダイバーシティも必要不可欠なものと考えているのです。
2016年にはLGBTQ従業員のサポートとして、配偶者の定義を改定。パートナーの性別に関わらず、配偶者を持つ従業員を対象にした福利厚生が受けられるようになりました。この取組みは高く評価され、LGBTに関するダイバーシティ・マネジメントを促進する「work with Pride」のプライド指標で、楽天は5年連続「ゴールド」を受賞しています。
楽天のSDGs取組み事例②:長く働き続けられる労働環境の整備
楽天では、性別関係なく働き続けられる労働環境の整備として、フレックスタイム制度や在宅勤務制度を導入しました。さらに従業員に対しては以下の取組みを通してサポートしています。
- ストックオプションの付与
- 退職金制度
- 「楽天賞」制度
これらの取組みの結果として、2020年の離職率は2017年よりも5.7ポイント減少しています。
知識や技術を持つ従業員の離職は、企業にとって大きな損失。楽天のように個々を尊重しつつ、やりがいのある環境で従業員の成長を促すのは、持続可能な経済成長に欠かせないでしょう。
SDGsの目標5に基づく企業の取組み事例:コカ・コーラ
コカ・コーラでは、商品の販売だけでなく、常に消費者に選ばれ続ける製品を作る企業であるために、社員の多様性も重視しています
具体的には、以下の内容に取組んでいます。
- 「2025年までに女性管理職比率6%」と掲げていた目標達成
- あらゆる角度から女性活躍を支える活動を推進
コカ・コーラのSDGs取組み事例①:2025年までに女性管理職比率6%を実現
コカ・コーラが目指す職場は、育ちや嗜好の違った様々なバックグラウンドや考え方を持った社員が、自由に能力を発揮し合える職場です。そこから末永く愛される商品が生まれると考えているのです。
ジェンダー平等の実現に向けて、「2025年までに女性管理職比率6%」と掲げていた目標を2021年1月に4年も前倒しで実現しました。以降も「2025年に10%、2030年には20%に引き上げる」という高い目標を設定しています。
このように、自ら目標設定をし、それを公言し、達成する姿を見せていくことも企業価値をあげるヒントになるのではないでしょうか。
コカ・コーラのSDGs取組み事例②:女性活躍を支える活動を推進
ジェンダー平等を実現するために、すべての社員が多様性を深く理解し、互いを尊重し合える組織文化を根付かせることが不可欠です。
コカ・コーラでは、
- 「アンコンシャスバイアストレーニング」や「インクルーシブリーダーシップトレーニング」などの社員教育
- 配偶者出産休暇制度の充実
など、あらゆる角度から女性活躍を支える活動を進めています。
その取組みの結果、2022年には経済産業省が選定する「準なでしこ銘柄」に3年連続で選定されています。
大幅に前倒ししての目標達成の裏には、女性のスキルアップに力を入れるだけではなく、周囲の社員の意識改革も同時並行で実施していたことが明らかになりました。このグローバル経営で培われた徹底的なリアリズムは、今後経営企画室や人事部で必須の視点となるでしょう。
SDGsの目標5から考える持続可能なビジネスへのヒント
SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」では、女の子や女性のエンパワーメントの向上が実現できる国際的な取組みが求められています。
改めて、SDGsの目標5の実現に求められている要点は、以下3点です。
- 暴力や有害な習わしに苦しむ女の子や女性を救う
- 性別関係なく教育の機会を平等にする
- 女性の社会での活躍できる社会を実現する
自社のサービス業に関係なく、女性の働きやすい環境整備やスキルアップの支援は、実現可能なのではないでしょうか。
また「女性だから〇〇をお願いしよう」「男性だから〇〇はできない」など、これまでの当たり前に縛られていないか、もう一度向き合うべきではないでしょうか。
SDGsに積極的に取組まれている企業事例を読み解くことで、ジェンダー平等につながるヒントが見えてくるはずです。
もしかしたら、「ジェンダー平等が実現できていない」と気づいた方もいるかもしれません。そのような場合は、どういう目標を達成していくのかを公言し、改善していく姿を見せることで、企業価値をアピールできるのではないでしょうか。ぜひ今回のポイントを参考にしてみてください。
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