ビジネスパーソン向けSDGsビジネスニュースサイト「ツヅケル」では、法政大学と関西学院大学の現役学生とコラボレーションし、「【Z 世代】SDGs シューカツ解体白書」プロジェクトを行っています。9月6日より「SDGs×就活の意識調査」がスタートしていますが、アンケート調査に励んでいる9月末、昭和3年創業、窓の卸売専門商社として日本の暮らしを支え続けてきたマテックス株式会社と「【Z 世代】SDGs シューカツ解体白書」プロジェクト参加メンバーの有志学生たちが集い、「マテリアリティ」をテーマとした対話会が行われました。
社会人にも浸透していない「マテリアリティ」。その意味は
ガラスやサッシといった建築資材を扱う、老舗の専門商社であるマテックス社は一般的にはBtoBビジネスが主。卸業に徹しているため、学生にその名はあまり知られていません。
私たちの生活に密接な役割を持つ窓。部屋の中に日光を入れたり、風を通したりすることだけではなく、実は、CO2排出削減に寄与しています。住環境だけでなく、住む人の健康にも関わるガラス窓の機能は幅広く、実はすべてがSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に繋がっています。
マテックス社の代表取締役社長・松本浩志さん、中川修平さんとともに法政大学や関西学院大学の学生たちが自己紹介し合い、和やかな雰囲気で対話会がスタート。
今回のテーマは「マテリアリティ」。その意味を知っている学生は少数でしたが、そもそも社会人にも浸透していない言葉です。
マテリアリティ(重要課題)とは?
・サステナビリティ経営を実現するための必須項目(一丁目一番地)
・企業における「重要性」であり、企業で優先すべき重要課題(マテリアル・イシュー)を判断するための尺度
企業が社会課題に置いて何を優先して取り組むのか? その課題をリストアップして社内外にヒアリングし、そこから優先順をつけ、開示していくこと。それを「マテリアリティの特定」というように企業は定めています。
マテックス社が自社のどのような社会課題をリストアップし、重要課題とするのか。SDGsに関心の高い現役学生はマテックス社のリストアップした課題に対してどういう意見をもつのか。
Z世代の学生は就職先を選ぶ際、CSR(企業の社会的責任)の観点をどのぐらい重要視しているのかもあぶりだされていきます。
マテックス社のマテリアリティ開示のステップに、「【Z 世代】SDGs シューカツ解体白書」プロジェクトの学生メンバーたちとのディスカッションがどのような貢献をするのでしょうか――。
世の中、社会の中は窓ガラスだらけ
冒頭では、松本社長が自社の会社概要と事業の説明をスライドと共に説明しました。池袋の上空からの写真を見せながら「世の中、社会の中は窓ガラスだらけではありませんか?」と語りかけます。戸建ての家、集合住宅、商業施設、オフィスビルなど。
当たり前すぎて、何かあった時にその存在に気づく。「窓は非常に面白い存在」という点に学生たちは頷きます。
「窓から日本を変えていく。」というビジョンを掲げているマテックス社は横浜市など地方自治体とも「窓による断熱改修が住まいにどういう意味をもたらすか」などの意見交換会を積極的に行っています。
業界の中でも老舗であるマテックス社は創業当時(1928年)、ひたすら経済的価値を追い求めていました。2009年ごろからは社会的価値、2013年ごろからは文化的価値……というように軸足を時代に合わせアップデートしています。
マテックス社の経営理念を支える10項目のコア・バリュー(大切にしたい価値観)に関しては2013年に社員全員で議論し、制定。2019年にはリニューアル、社員たちがより意思決定をしやすくなりました。
社内イベントを活発化し、社員が課題意識を持ちながら本質的な語彙に削ぎ落していった現在のコア・バリューによって、エンゲージメントもより高まっています。
プレゼンのあと、学生たちに率直な感想を求めた松本社長。
「皆さんの言葉をステークホルダーの声として参考にし、マテリアリティに反映していきたい」
しっかりとしたまなざしで傾聴していた学生たちからは、このようなコメントがあがりました。
「そもそもマテックス社のことだったり、ガラス窓の卸会社という存在があることを知らなかった。卸売業者としては他の会社との差別化をどうするのか気になった」(法政大学グローバル教養学部1年の藤田さん)
「自分の部屋の窓を替えたら温度管理がしやすくなり、生活の質が上がった。エアコンをつけるかどうかだったり、湿度だったり、窓は生活に直結している。事業として素敵だと感じた。また、窓をインテリアとしてみていくという視点はもっと世の中に広まってほしい」(関西学院大学総合政策学部4年の髙橋さん)
「エコ窓に興味がある。環境に配慮できる事業は素晴らしい。社員みんなでコア・バリューを磨き上げて行ったり、コア・パーパスに向けて積極的に取り組んでいるのが魅力的だ」(法政大学グローバル教養学部1年の辻さん)
「ステークホルダーをとても大切にしてる会社」(法政大学グローバル教養学部1年の吉田さん)
これらの感想に対し、松本社長は「ポジティブに受け止めていただけてうれしい。バリューやパーパスについて、広報活動的にならないようチャレンジしてる姿を見せられたこともよかった」と喜びました。
マテリアリティ策定に向けた4つのキーワード
引き続き、松本社長から「窓を扱う会社」「社会課題に取り組む会社」「CO2排出量削減に取り組む会社」「パーパスを大切にしている会社」「『依』食住」といったキーワードを交えながら事業説明を受けた学生たち。
続いて、マテリアリティの整理について説明を受けました。キーワードは以下の4つ。
④経済成長至上(商業)主義からの脱却
まず、「①自分ごと化」について。「自分ごと化」はマテックス社にとっては大きなテーマですが、そもそも社会課題は壮大で、なかなか自分ごと化しづらいもの。しかしサステナブルな経営戦略を描く企業に勤め、自分ごと化することで実感を得られます。
松本社長の説明に、学生たちのほぼ全員が「共感できる」という反応を見せました。共感する理由を学生の法政大学経営学部1年の君官さんはこう説明します。
「日本は何かあったら誰かに頼ろうということを重要視してきた。だけど結果的に変わらないことも多かった。自分にいかに置き換えて行動に移せるかが大事」
法政大学社会学部3年の天沼さんは「たとえば介護の問題など、テレビで見ると大変そうだと思っていたが、身近で介護を家族がしているとこれまで他人事のように考えていたのだと気づかされた」と、介護中のお母さんに思いを馳せました。
法政大学国際文化学部1年の佐々木さんは「中学高校の部活においても、実際に行動しないと問題解決の方法もわからない。他人事のままだと大人数を動かすのも大変だし、自分で知ろうと思わないと問題があること自体にも気づかない」と、実体験をまじえて語りました。
法政大学グローバル教養学部1年の森田さんは「他人事じゃなく、自分ならどうできるか。小さいかもしれないけどやってみようという前向きな姿勢を持つことで、組織の力が大きくなる」と未来志向な提言をしました。
そもそも「自分ごと化」とは何か
「自分ごと化」を第一義に考えている松本社長は、学生たちに想いを語ります。
「難しく考えると難しくなってしまう。日本においては何か事件が起きると悪者を探して、ある程度たたくと次のターゲットを探す。どこか他人事で、何か問題が起きてから騒ぎ始める。こうした風潮もあるし、すべて自分ごと化するのは難しいと思うが、『自分だったら…』と想像力を働かせる視点は必要。そうして『物事が起きる前に』解決しようと、社会問題に一人の人間として重ねて考える努力をみんながしていけば、社会課題はいい方向に向いていくのではないか」
ただし、マテックス社が「自分ごと化」に取り組む具体的イメージが湧く学生がまだ少なく……。
「自分ごと化と言われて納得する企業は、飛躍してしまうけれど政府。国の代表が言わないとそもそも納得感がないのでは」(君官さん)
「窓と環境問題の関係性は納得したけど、自分と窓の会社の関連付けがイメージできない」(天沼さん)
対話の中で徐々にイメージが湧いてきた学生もいました。
法政大学社会学部1年の森田さんは「環境に良くない素材を使わない、社員のみんなで考える、地域から調達する」それが自分ごと化のイメージ、と述べ、法政大学国際文化学部1年の齊藤さんは「次世代の人たちに伝えていってほしいと思った。自分は広告分野に興味があるので、マテックス社のオリジナリティ、ユニークネスをうまくプロモーションしていくことが差別化のためにも大事。ただ、SDGsウォッシュにならないよう、打ち出し方は慎重にした方がいい」と広告戦略にも触れました。
藤田さんも「自分ごと化において、途上国のような国のこともカバーしている企業には好感を覚える。ただ、今SDGsへの取り組みを喧伝している会社は多いので、具体性や実績が必要だと思う」とPR戦略へ提言するなど、議論はより具体的に。
窓とサードプレイスの素敵な関係
次は、「②「依」――よりどころ」について。住環境に窓は密接に関係していますが、マテックス社が「よりどころ」に取り組むということにはほぼ全員が納得感があると挙手しました。
「窓へのかかわり方は多様性がある。いろんなカタチのサードプレイスなど、よりどころになる場がある。友達とおしゃべりする場があるといいし、そういう場所を提供してくれる企業にはポジティブな印象がある」(辻さん)
「よりどころというと、家族、恋人といった大切な存在を想像する。そういう人にとっても窓は住環境としていいよりどころになっている。だから窓を扱うマテックス社の取り組みに共感する」(君官さん)
いっぽう「何をもってよりどころなのか、定義がわからない」と悩む法政大学国際関係学部1年の斎藤さんのコメントに対して、松本社長はこう解説します。
「心の支えになる人や時間がよりどころ。今の時代、よりどころがあるから熾烈なビジネスの中でも戦っていけるもの。いい人生や幸せ実感がある人はすごくいい人間関係があるという実験結果がある。いいサードプレイスを自社でも作ったり、ほかを紹介したり、社員がリフレッシュできる場を提供することを考えたほうがいいのでは」
さらに「依」に関連して、松本社長は「ステークホルダーとの関係性」「人と人の繋がり」について語りました。
藤田さんから「卸売業者としては他の会社との差別化をどうするのか、など気になった」といった感想がありましたが、「卸や小売りの会社として、お客さんとの関係性を重視している。お客様が地域社会でどう輝けるかを考えながらビジネスをしているし、そういうお客さんを増やすために頑張っている。ステークホルダーや地域社会をどの会社よりも大事にしている。そこが同業他社との違い」と説明しました。
窓の会社が脱炭素に取り組む理由
続いて「③環境への取り組み(脱炭素)」について学生の所感を聞いてみたところ、佐々木さんは「窓の会社と脱炭素の結び付きが、イメージできない。共感以前の問題で理解が追い付いていない」と苦笑いします。
そもそも、学生たちが考える「脱炭素」とはいったいどういうものなのでしょう。
「紙ストローを使っているお店を選んだり、エコバックを使ったりしている」(藤田さん)
「自分の生活というよりはメディアで目にするもの。車のEVの話は意識に残っている」(斎藤さん)
さまざまなコメントが飛び交う中、髙橋さんは「脱炭素は世界が直面している課題」と舌鋒鋭く切り込みます。
「すべての企業が取り組まなけれないけないという前提がある。日本企業はこれまで環境問題と言いながら国内の公害問題に閉じていた。もっと視野を広め、カーボンニュートラルに目を向けるべき。自分たちの生活に影響を及ぼすのが“窓”だからこそ、できることがあるのでは」(髙橋さん)
松本社長は、学生たちがイメージしやすいよう、窓の会社が脱炭素に取り組む理由を説明しました。
「正しいことを正しくやるのは限界がある。社内で正しいことをいかに楽しさを持ち込んでやるのか、知恵出しが大事、と言っている。ガラスの原料は砂。3種類の砂を1600℃の高温でどろどろに溶かし、固めて作るもの。その際に大量のCO2が発生する。地上にガラスは至る所に存在するし、腐るものではない。半永久的にCO2は生み出される。窓を扱う老舗企業として、脱炭素に関しては今まで以上に積極的に取り組んでいく」
一例として、マテックス社は社内においては「エコアクション21」の認証を取得し(2010年)、CO2排出量の可視化に取り組んでいます。 2013年度に1,068トンだった排出量を2030年度には481トンに削減することを目標に、社員一人一人が省エネ意識を高め、実践。
また、エコガラス(Low-E複層ガラスの共通呼称)の普及を積極的に進め、2030年までに17万5千トンのCO2削減を目標に掲げています。
藤田さんからは「こういう会社があるということをステークホルダーが知っていくことが大事。エコバッグが普及したような行動連鎖が起きる」と、感心の声が寄せられました。
社内の風通しのよさと誇り、やりがい
次は「④経済成長至上(商業)主義からの脱却」について。経済成長至上主義の脱却はマテックスの中でもかなりの上位概念です。
多数の学生が共感を示した中、共感できないと挙手した君官さんは「経営学部で学んでいる身からすると、利益を生むためにどうするべきかというのを学んでいるので、いっけん社会のためにキャンペーンを行っているような会社であっても利益と切り離されていない印象を抱いてしまう」と持論を展開。
就職活動を終え、アルバイトもいろいろ経験してきた髙橋さんはこう語ります。「環境問題、脱炭素などに取り組んでいる企業は人材育成にも注力している。会社の規模には関係はない。老舗企業であっても見せかけだけで働く人に優しくない企業もある。スタートアップだったり小さい企業でもお客さんと人のことを考えたうえですごい利益を生み出している企業もある。脱却はできないかもしれないけど、姿勢を見せること、体制の見直しはすべての企業ができるのではと思う」
さらには、地震が多い日本の住環境と経済成長至上主義の関連については「コスパ重視の傾向にあるけど、安心感はなくなっていく」と懸念を示しました。
天沼さんは「窓は暮らしに密接で、よりどころとなる。経済成長至上主義と結び付くと矛盾が出てくる。その点、周囲の人間、特に社員を大事にできる企業は就職活動をしている身としても共感度が高い」と理解を示しました。
ほかにはこんな声が。
「広告を出しまくってお金を稼ぐことだけを考えている企業には違和感を感じているので、本来の目的に沿って行動できているマテックス社には共感を覚える」(斎藤さん)
「SDGsは壮大で、普段は考えられないが、売り上げに向き合いつつマテリアリティ策定にも全力を尽くしているのはスゴイ。会社全体が同じ方向を向くためには風通しの良さと誇り、やりがいが重要なんだと思った」(吉田さん)
適正な努力をしながら、どう利益を生み出すか
学生たちの闊達なコメントに耳を傾けていた松本社長はこう述べました。
「よく『ヒト・モノ・カネ』というのが経営をしていくための三大資源であるというが、問題のある会社の場合は『カネ・モノ・ヒト』と順番が逆になっている。そういう会社にはしていきたくない。私にとってのいい会社の条件は、お金も大事だけど社員が成長実感を感じられる会社。自分が役に立っていると感じられるような」
さらには、
「未来を生きていくには適正な利益を出さなければいけない。カギとなるのは、どのように利益を生み出すか、その内容。安くて良いものを売るには企業努力が必要で、これも適正な努力、健全な努力がなされたうえでの価格となる。自分がこれまでビジネスの世界で生きてきて感じたことは、『安い』値付けには誰かの犠牲が伴っていることが多々起きている。安価を誰が支えてるのか目を向けながら、サステナブルな事業づくりに務めていかなければいけない」と締めくくりました。
対話会のすべてを終えてみて感想を聞いたところ、学生たちの多くは「自分ごと化」に共感が募ったようで――。さまざまな社会課題の中で「自分も環境の一部なのだ」という大きな気づきを得たようです。
対話会を見守っていたマテックス社の中堅社員の中川さんも「窓のない部屋で生活できるか想像を。窓は快適な生活のために無くてはならない。そこにいるだけで環境に貢献でき、皆さんのよりどころとなり、窓の大切さを知れるサードプレイスを作りたい」とメッセージを伝えました。
初の試みとなるマテックス社と学生の対話会。「マテリアリティ」を起点に、多種多様な意見やZ世代ならではの価値観が学生たちから飛び交いました。マテックス社の取り組みにどう活かされていくのか、今後もご注目ください。
マテックス株式会社のサイトでも対話会の様子が掲載されました!
マテックス社の「マテリアリティ」における4つのキーワードをもとに展開された今回の対話会。今回「ツヅケル」では、対話会の内容を学生視点でご紹介しました。
その対話会の様子を、マテックス社が企業側の視点で記事を掲載してくださいました!
下記リンクよりご覧になれますので、ぜひご一読ください。
学生プロフィール
初の試みとなるマテックス社と学生の対話会。「マテリアリティ」を起点に、多種多様な意見やZ世代ならではの価値観が学生たちから飛び交いました。マテックス社の取り組みにどう活かされていくのか、今後もご注目ください。
天沼真由子 |
君官宙 |
佐々木美澪 |
斎藤日向子 |
齋藤真尋 |
髙橋花純 |
辻航士郎 |
藤田もも |
森田彩月 |
吉田麻衣 |