SDGs(持続可能な開発目標)の目標6「安全な水とトイレを世界中に」は、水資源を守りながら、安全な水と衛生環境への持続可能なアクセスを目指した目標です。また、世界人口の増加による水不足が予測されているため、一刻も早い対策が求められています。節水や排水への配慮など、わたしたちの生活にもつながる大きな社会課題です。
本記事では、SDGsの目標6で定めている8つのターゲットとポイントを解説します。また、今後わたしたちが取り組むべきこととコカ・コーラとソフトバンクが取り組んでいる事例をあわせてご紹介します。ビジネスパーソンとしてSDGsへの取組み方を読み解くヒントをお伝えしていきますので、ぜひご覧ください。
【Pick Up】「ツヅケル」が注目したビジネスパーソンがSDGsの目標6を読み解くポイント
- “安全な水とトイレを世界中に”の具体的な取組みキーワードは「水の使用量の削減と水の再利用」「水資源や森林の保全」「最新技術を生かした水道インフラの整備」の活用
- 企業が取組みやすいポイントは、サプライチェーン上で使用する水量と発生する排水の見直し
SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」の8のターゲット
SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」では、だれもが安全な水と衛生環境へのアクセスが持続可能である社会を目指しています。さらに水不足を改善するとともに、水に関係する生態系を守る取組みも進めています。
この目標を実現するため、8個のターゲットが設定されています。
【SDGsの目標6.安全な水とトイレを世界中にの8つのターゲット】
- 6.1 2030年までに、全ての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ平等なアクセスを達成する。
- 6.2 2030年までに、全ての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。女性及び女子、並びに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を向ける。
- 6.3 2030年までに、汚染の減少、投棄廃絶と有害な化学物質や物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模での大幅な増加させることにより、水質を改善する。
- 6.4 2030年までに、全セクターにおいて水の利用効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足に悩む人々の数を大幅に減少させる。
- 6.5 2030年までに、国境を越えた適切な協力を含む、あらゆるレベルでの統合水資源管理を実施する。
- 6.6 2020年までに、山地、森林、湿地、河川、帯水層、湖沼などの水に関連する生態系の保護・回復を行う。
- 6.a 2030年までに、集水、海水淡水化、水の効率的利用、排水処理、リサイクル・再利用技術など、開発途上国における水と衛生分野での活動や計画を対象とした国際協力と能力構築支援を拡大する。
- 6.b 水と衛生に関わる分野の管理向上への地域コミュニティの参加を支援・強化する。
SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」には、主に「安全な水を確保できるインフラ整備」「トイレの普及」「持続可能な水質管理」「水にかかわる生態系を守る」という目的があります。8個のターゲットは、これらを実現するための具体的な対応の方向性として明記されていることを理解しておきましょう。
出典:SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
写真(PROGRESS ON HOUSEHOLD DRINKING WATER,SANITATION AND HYGIENE|UNICEF)
SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」が必要な理由
安全な水をすべての人が使用できるようにするためには、持続可能な水へのアクセスを整えながら、水資源や生き物を守っていく必要があります。
SDGsの目標6のターゲットの内容から、ビジネスパーソンとして押さえておくべき3つの要点をご紹介します。
【水と衛生へのアクセスを確保する3つの理由】
- 安全な水を確保するために、女性や子どもが水くみをしなければならないから
- 屋外排泄は不衛生な環境、下痢やかぜなどの病気を引き起こすから
- 水資源を守らなければ、深刻な水不足につながるから
次から1つずつみていきましょう。
安全な水を確保するために、女性や子どもが水くみをしなければならない
世界でみると、水道の設備がない生活をしている人は22億人いると言われています。
水道設備がない地域では、毎日の水くみが欠かせません。何時間もかけて水くみにいくのは女性や子供の仕事です。
実際に、13歳でアイシャという名前の少女は、水くみのために毎日8時間費やしていました。そこで得られる水はたったの5 Lで、その水は安全とは言えません。
このような状況が続くことで、女性は働けなくなったり、子どもは学校で教育を受けられなくなってしまいます。安全な水が手軽に使えないことで、労働や教育の機会が奪われてしまうのです。
屋外排泄は不衛生な環境や病気を引き起こす
世界の3人に1人はトイレを使用できません。道ばた、バケツやビニール袋の中へ排泄しています。さらに世界の23億人が、基本的な手洗い設備がないのも問題です。
屋外排泄によって、排泄物に含まれる病原菌が人の手、川や地面などを介して体内に入り、下痢や風邪などの病気を引き起こします。
いまでも、1日に1,300人以上の子供が下痢が原因で命を落としています。さらに「用を足している姿を誰かに見られるかもしれない」という不安から学校を休む女の子も多くいるのが現状です。
一人でも多くの命を守るために、清潔なトイレを使い、衛生的な生活を送ることができる環境整備が求められています。
我々日本人にとっては当たり前の存在であるトイレは、人間の生存や尊厳の確保をする上での基盤となる設備です。その基盤無くして、夢や目標を抱くのは難しいこと。全世界の人類の3人に1人が、トイレが無いことによって夢や目標を棄損されていると考えれば、基本的な生活基盤の重要性がわかります。
水資源を守らなければ、深刻な水不足につながる
2050年までに、4人に1人以上が慢性的な水不足の影響を受ける可能性が高いと予想されています。
その原因は、世界人口の増加。2015年に国連は、2050年には約97億人に達するという予測を公表しました。
人口の増加により、生活用水や工業用水など、水の使用量も増加するため、深刻な水不足が懸念されているのです。
現在の日本では、ストレスなく水を使えます。けれども、将来は水を自由に使えなくなるかもしれません。未来にも水へのアクセスを持続可能なものにするために、水資源を大切に使ったり、水を生み出す森林を保護したりする活動が求められています。
水は増やそうと思って手を打ったらすぐに増えるものではありません。水源の確保や森林の保養には長い時間がかかります。このタイムラグを踏まえると、将来高い確率でやってくる深刻な水不足のための打ち手を打てるタイミングは「今」なのです。
SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」の8個のターゲットからは、安全な水やトイレへの持続可能なアクセスを確保したり、限りある水資源を適切に管理したりするなど、目標の方向性が分かります。
安全な水とトイレを確保するための日本政府の取組み
では、日本は安全な水とトイレを持続的に確保するためにどのような取組みをしているのでしょうか。今回は2つの事例を紹介します。
- 安全でおいしい水の確保
- 森林保全
では、それぞれみていきましょう。
日本のSDGs取組み事例①:安全でおいしい水の確保
海外へ旅行したときに、なるべく水道水を口に入れないように気をつけている方も多いのではないでしょうか。下水道の整備のデータをみると、日本の普及率は「80.1%」。一方、世界では、生活排水の90%は未処理のまま流されているのが現状です。それだけ、日本政府は、安全でおいしい水道水を届けるために努力しているといえます。
日本の水道水の約76%は河川や湖沼などが水源。これを浄水処理して家庭に給水しています。そのため、安全でおいしい水を確保するためには、河川・湖沼の水質が重要。河川や湖沼の水質の悪化は、カビ臭いといった異臭を発生させる原因になるからです。
日本は水源水質の保全のために環境基準を設けており、河川では近年、達成率が約95%を超え、水質改善が進んでいます。けれども、湖沼の達成率は50~60%で、今後も改善が必要です。
日本の強みを生かした取組みをこれからも続けていくことが大切であるといえます。
出典:都道府県別の下水処理人口普及率|公益社団法人 日本下水道協会
日本のSDGs取組み事例②:森林保全
日本でも、水資源を守るために、森林保全に取り組んでいます。その事例の一つが、「グリーン購入法」。国などの公的機関が率先して、環境への負荷が出来るだけ少ないものを選んで購入することを定めたグリーン購入法を施行しています。
- 木材・木材製品の合法性
- 持続可能性
などが重視されたガイドラインです。その中でも特に生活に身近なものが「森林認証」。「森林認証」とは、森林が適切に管理されていることを第三者機関が認証し、その森林から産出された、木材・木材製品であることを認証したマークです。
このように、国民一人ひとりが森林保全に協力しやすい環境を整えることも政府に求められているのではないでしょうか。
安全な水とトイレを確保するためにわたしたちにできること
日本で暮らしていると、水不足を意識することはありませんが、その中でも私達個人にできることはあります。
どれも、今すぐにでも始められるアクションです。自分自身にできることから、早速実践していきましょう。
写真(PROGRESS ON HOUSEHOLD DRINKING WATER,SANITATION AND HYGIENE|UNICEF)
①NPO・NGOや企業に寄付を行う
水不足に対する即効性のある支援として、「井戸の普及」を実践しているNPO、NGO、企業がたくさんあります。
例えばユニセフ。ユニセフは、給水システムの設置など、様々な水支援を行っています。1回の募金から、マンスリーサポートまでプログラムが用意されています。自身でできる範囲で寄付を行う事が可能です。
出典:ユニセフ・マンスリーサポート・プログラム|日本ユニセフ協会
②節水に協力する
節水に協力することも立派な貢献につながります。各家庭の意識改革は、水不足の解決への第一歩です。
便利な生活を送っていると、どうしても「水は使い放題」という感覚になってしまう方も多いのではないでしょうか。しかし、地球上で使える生活用水はわずかしかありません。
その貴重な水を汚染している大きな原因のひとつが、私達の生活排水です。
台所、トイレ、風呂、洗濯などで私達が使う水は、1日250リットルにも及ぶと言います。
現在の使用量を把握した上で、節水の方法を考えていくことが必要です。例えばシャワーを浴びる時、歯を磨くときにに水を出しっぱなしにしないだけでも、節水に繋がります。
水の使用量の削減ができれば、地球規模では水の汚染を、家庭レベルではコストカットにも繋がります。
まさに、一石二鳥ではないでしょうか。
②油や洗剤で汚れた水をできるだけ流さない
汚れた水をできるだけ排水しないという行動も大切です。なぜなら、汚れた水をきれいにするために大量の水資源を使うからです。
例えば、「使用済みの天ぷら油20mL」を流した排水を、魚が住めるくらい清潔な水にするためには、300Lのバスタブ20杯相当の水が必要と言われています。
貴重な水資源を守るために、洗剤の量を減らしたり、汚れを拭き取ってから皿洗いをするなど、なるべく汚れがすくない水を流す工夫が必要です。
SDGsの目標6に基づく企業の取組み事例「コカ・コーラ」
だれもが安全な水とトイレを使用できる社会実現のためには、社会への影響や責任の大きい企業においても積極的に取り組むことが求められます。
飲料水を生産するコラ・コーラは、水資源や森林の保全に取り組んでいます。
具体的な内容は以下の通りです。
- 節水や排水の改善などを通して、水資源を保全する
- 水の確保を持続可能なものにするために、森林を守る
コカ・コーラのSDGs取組み事例①:水資源の保全
「水資源」を使用した事業を展開するコカ・コーラ社では、SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」に基づき、「2030年までに水の使用量を30%削減する」「2025年まで水源涵養率200%維持」の達成を目指しています。
具体的な取組み例としてはたとえば、工場の製造プロセスの改善をすることで節水に努めています。さらに、水を使う時だけではなく、使用後のことも考えていました。
製造で使用した水量と同じ水を自然に戻す活動を実施。水源地域や学識者の協力のもと、水資源保護に尽力した結果、2020年の水源涵養率は前年比13%アップの364%を達成しました。
自社の強みを生かして、SDGsへ貢献するという典型的な取組みですね。企業が一丸となって、自然環境への恩返しをしているとも言えるのではないでしょうか。
コカ・コーラのSDGs取組み事例②:森林保全活動
森林保全活動として、「い・ろ・は・すの森活」プロジェクトを実施。ミネラルウォーターブランド「い・ろ・は・す」の売上の一部を、日本各地の森林保全活動へ寄付しています。
天然水を育む豊かな森林を未来に残すことを目指すために、継続的に取り組んでいました。
売上の一部を還元することで、コカ・コーラの顧客もSDGsの目標達成に大きく貢献できます。エシカル消費につながるしくみは、他の商品や事業へ展開できそうですね。
コカ・コーラのSDGs取組み事例③:水源保全プロジェクトをWebムービーで発信
またコカ・コーラは、SDGsに関連した取組みの広報にも力を入れています。水源保全プロジェクトの価値が伝わるWebムービーを制作しました。活動内容がよくわかるだけではなく、「未来も豊かな森林を残したい」という想いも感じられます。
SDGsの目標6に基づく企業の取組み事例「ソフトバンク」
日本国内でも大手の電気通信事業者であるソフトバンクは、水道整備に取り組んでいます。
ソフトバンクのSDGs取組み事例①:最新のテクノロジーで水の問題解決へ
ソフトバンクでは、「すべてのモノ、情報、心がつながる世の中を」というコンセプトを設定。このコンセプトのもと、持続可能な社会の発展に向け、6つのマテリアリティ(重要課題)を特定しました。その中の一つに、「テクノロジーのチカラで地球環境へ貢献」が含まれています。
「日本の水道インフラに、問題はないのではないか」と思う方もいるかもしれません。実は、現在、水道インフラを維持するために働く技術者の不足に直面しています。手作業に頼らない効率的な運営が実現できるかどうかという大きな岐路に立っているのです。
ソフトバンクから、生きていく上で必要不可欠な水の課題に真正面から対峙するという覚悟が伝わりました。
ソフトバンクのSDGs取組み事例②:次世代水インフラの推進
ソフトバンクは、最先端テクノロジーを活用しながら、次世代水インフラプロジェクトを推進しています。
「通信事業がなぜ水道の問題を解決するのだろう」と疑問に思った方も、データ分析や最新技術の強みを生かしながら、水道インフラ整備に取り組んでいると聞けば、納得できるのではないでしょうか。
この活動の背景にあるのが、水道の老朽化。1955~1972年の高度経済成長期に整備された水道菅は、老朽化しつつあります。しかし、水道料金による収入で水道インフラを維持するのは困難であるため、税金や地方債が投入されています。
生活に欠かせない水道インフラを放置すれば、近い将来、深刻な状況に陥るでしょう。
2021年5月、ソフトバンクは、自律分散型水循環システムの開発を手掛けるWOTA株式会社との資本・業務提携を発表しました。
WOTA株式会社が有する水処理技術を活用しながら、新たな水の供給システムを目標としています。次世代水インフラプロジェクトとして期待されています。
水資源の豊富な日本では、SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」に取り組む企業が少ないと言われています。我が国の現状を受け止めたソフトバンクは、将来のリスクを懸念し、テクノロジーのチカラで地球環境へ貢献することに挑み続けていました。
ソフトバンクの強みをフル活用した水道インフラ事業は、将来的に大きな成果と評価を得られるかもしれません。
出典:AI、IoTを活用した再生技術で、持続可能な“水”インフラを社会に広げていく|SoftBank SDGs Actions #4
SDGs目標6から考える持続可能なビジネスへのヒント
SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」では、安全な水とトイレを持続的に利用できるような国際的な取組みや運用が求められています。
改めて、SDGsの目標6の実現に求められている要点は、以下3点です。
- 安全な水へのアクセスを確保するために、インフラ整備の実施
- 多くの命を救うために、すべての地域にトイレを普及する
- 持続可能な水資源を確保するために、森林や生態系を守る
自社の本業で工業用水を排出する場合は、水の使用量の削減や水の再利用など、環境にやさしい取組みができるでしょう。
一方、自社の業務領域が工業用水とあまり関係がない場合は、社内の節水はイメージできるものの、新事業へつなげるのは難しいかもしれません。
しかし、SDGsに積極的に取り組まれている企業事例を読み解くことで、一見関わりのない水資源の保全につながるヒントが見えてくるはずです。
特に、データ分析や機械学習などの最新技術を生かした取組みは、これから必要とされる分野と言えます。ソフトバンクの事例のように、企業でパートシップを結んだり、長期的な貢献を目指したりするという視点で考えると、新事業のアイディアが見つかるかもしれません。ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
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