人類にとって、平和は大きな課題です。また紛争や戦争に直接巻き込まれていない国でも、すべての人々が平和に暮らしているわけではありません。保護者から日常的に暴力を受けている子どもや、法的な身分証明を持たない子どももいます。その問題から目を背けている人も多いでしょう。
そんな現状を変えるべく設定されているのが、SDGsの目標16「平和と公平をすべての人に」です。
本記事では、目標16「平和と公平をすべての人に」のターゲットや取組みが必要な理由、日本での課題などについて紹介していきます。併せて受賞・表彰を受けた日本生活協同組合連合会やマーケットエンタープライズなどの企業での取組み事例についても紹介しますので、自社で取組みを検討するにあたっての参考にしてみましょう。
【Pick Up】「ツヅケル」が注目したビジネスパーソンがSDGsの目標16を読み解くポイント
- 差別・搾取・暴力を受ける子どもへの取組みが必要
- 企業ならハラスメントや差別への取組みが可能
SDGsの目標16「平和と公平をすべての人に」12のターゲット
SDGsの目標16「平和と公平をすべての人に」では、平和で包摂的な社会の促進・司法へのアクセス提供・効果的で説明責任のある包摂的な制度の構築をターゲットに掲げています。
【SDGsの目標16.平和と公平をすべての人に】
- 16.1 あらゆる場所において、すべての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる。
- 16.2 子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。
- 16.3 国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、すべての人々に司法への平等なアクセスを提供する。
- 16.4 2030年までに、違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する。
- 16.5 あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる。
- 16.6 あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる。
- 16.7 あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する。
- 16.8 グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。
- 16.9 2030年までに、すべての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する。
- 16.10 国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する。
- 16.a 特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する。
- 16.b 持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する。
紛争に直接関係のない国や地域であっても、暴力・虐待・搾取・汚職・賄賂などは行われています。テロリズムや犯罪の撲滅も必要です。
すべての人々が幸せに生きるためにも、目標16は必ず達成しなくてはなりません。
SDGsの目標16「平和と公平をすべての人に」が必要な理由
SDGsの目標16は「平和と公正」がテーマです。表面上では平和に見えている国でも、内側には大きな問題を抱えています。それは日本も例外ではありません。そこで目標16が必要となる代表的な理由を紹介していきます。
- 暴力や搾取が横行している
- 紛争・戦争による不安定な地域が多い
- 法的に存在しない子どもが多数存在する
それぞれの内容についてチェックしていきましょう。
暴力や搾取が横行している
SDGsの目標として「平和と公正」が求められるのは、世界中で暴力や搾取が横行しているからです。
世界的に見ると5分に1人の割合で、子どもが暴力により命を落としています。そして残念なことに、地球上で暮らす2~4歳の子どものうち、75パーセントは家庭で日常的に保護者からの暴力を受けています。外の世界だけでなく、家庭すら安心できる状況にない子どもが多いのです。
子どもに対する暴力や体罰を全面的に禁止している国は、わずか60しかありません。6億もの子どもが、保護者による暴力から法的に身を守る術を持たない状況です。
日本も部分的に禁止されているとはいえ、しつけを名目にした暴力で命を落とす子どもが大勢存在しています。
幼い子どもなら、周囲に助けを求めるのも難しいでしょう。家庭の中で起こることは、周囲に見えづらいものです。分かっていても助けにくい状況もあります。この状況を変えていくためには、子どもへの暴力に対する法整備が必要です。
出典:16.平和と公正をすべての人に | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)
紛争・戦争による不安定な地域が多い
紛争や災害による不安定な地域が多いのも、SDGsの目標16が必要な理由です。
居住している地域が紛争に巻き込まれると、家・財産・仕事などを失います。その結果として貧困や飢餓に苦しむ子どもも多いでしょう。紛争が多い地域は治安も悪く、犯罪に巻き込まれる人々も大勢います。
2022年にはロシアがウクライナへの侵攻を開始しました。しかし2022年以前からも、紛争や戦争は世界の各地で発生し続けています。紛争の影響を受ける国・地域で暮らす子どもの数は、2億4,600万人以上です。
持続可能な社会を作るためにも、世界中すべての人が差別・暴力・災害・紛争・犯罪に苦しまない状況にする必要があります。さらに犯罪に巻き込まれた時にも適切な助けが受けられるよう、各国が対策を取らなくてはなりません。
写真(Sviatoslav_Shevchenko / Shutterstock.com)
法的に存在しない子どもが多数存在する
法的に存在しない子どもが多数存在するのも、目標16が必要な理由です。
子どもが生まれると、日本では「出生届」を出して戸籍への登録を行います。この戸籍への登録により、さまざまな公的サービスが受けられる仕組みです。しかし実は日本にも無戸籍の子どもが存在します。その正確な数は把握されていません。
子どもが無戸籍になる理由の多くが、経済的理由ではなく、親が「嫡出推定」を避ける選択をしたためです。現行の民法では、たとえ実子ではなくとも婚姻中の妊娠・出産なら法律上の夫が父親になります。その結果として生じるトラブルもあるため、無戸籍を選択する人がいるのです。
さらに世界で見ると、5歳未満の子どもの4人に1人(1億6,600万人)は出生登録がされていません。この1億6,600万人の子どものうち半数は、インド・ナイジェリア・エチオピア・パキスタン・コンゴ民主共和国の5カ国に暮らしています。医療や教育の提供を受けるためにも、出生登録が必要になります。
日本では法務省が、無戸籍問題を解消するための案内を実施中です。しかしそもそも無戸籍を選択せずに済むような取組みも必要でしょう。
出典:目標16.平和と公正をすべての人に |日本ユニセフ協会
日本が解決すべき平和と公正での課題
現在のところ、日本では紛争の発生がありません。しかし平和で公正な社会だとも言えない状況です。以下の問題については、特に早急な対策が望まれます。
- 無戸籍者
- 子どもへの暴力と搾取
- 家庭内暴力
- 選挙の投票率
- 差別
無戸籍者は学校に行くのも難しく、保険適用での治療も受けられません。銀行口座すら作れない状態です。そもそも実数が把握できていないのも大きな問題でしょう。
また日本でも暴力により命を落としたり、性的虐待に遭ったりする子どもが大勢います。家庭内暴力により支援センターに相談する被害者は年間20万人以上です。
選挙の投票率は、成年年齢が引き下げられても低いままの状態が続いています。
さらに、男女差別やLGBTsへの偏見も大きな問題です。
問題の中には、国としての対応が必要になるものもあるでしょう。しかし選挙の投票率や差別については、国だけでなく個人にも考え方の変化が求められます。
「平和と公平をすべての人に」を実現するための日本政府の取組み
SDGsの目標16である「平和と公平をすべての人に」は、日本も大きな課題を抱えています。差別なき社会を目指すために、日本ではどのような取組みを行っているのでしょうか。
政府・自治体による代表的な取組みから2つを紹介します。
- 性同一性障害者の性別の取り扱いに関する法律
- パートナーシップ証明制度
まだ課題が残る2つの取組みについて、概要をチェックしてみましょう。
日本のSDGs取組み事例①:性同一性障害者の性別の取り扱いに関する法律
SDGsの採択に先駆けて、日本では2004年に「性同一性障害者の性別の取扱いに関する法律」が施行されました。施行により、トランスジェンダーは法律上の性別変更が可能です。
ところが世界的には「人的視点が欠如した差別的な内容」との評価を受けています。
なぜなら性別変更には、以下のような条件が必要だからです。
一、十八歳以上であること。
二、現に婚姻をしていないこと。
三、現に未成年の子がいないこと。
四、生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五、その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
性別変更をするには、すべての条件を満たさなくてはなりません。背景として考えられるのが、同性婚を認めていないという日本の状況です。SDGs目標16から考えると、改善が求められる法律であると言えるでしょう。
参照:性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律 | e-Gov法令検索
日本のSDGs取組み事例②:パートナーシップ証明制度
法律で戸籍性別上同性間の婚姻が認められていない日本ですが、状況は変わりつつあります。自治体が「結婚に相当する関係」という証明書を発行するようになったのです。
パートナーシップ制度は、2015年に渋谷区・世田谷区から始まりました。現在では140の自治体で施行されています。社会的サービスや配慮が受けやすくなったため、環境は改善しつつあるといえるでしょう。パートナーシップ制度を受け、各企業でも新たなサービスの提供を始めています。
しかしパートナーシップ制度には法的な効力がありません。自治体が同性カップルを認めるのなら、国が認めても良いのではないでしょうか。「すべての人に公平を」と考えるなら、同性婚についても検討していく必要があります。性別変更とともに、同性婚は日本政府が取組んで行くべき大きな課題です。
参照:同性パートナーシップ証明制度とは | Magazine for LGBTQ+Ally - PRIDE JAPAN
SDGs目標16に基づく企業の取組み事例
SDGsの目標16に基づく企業の取組み事例を3つ紹介します。紹介する企業は、目標16を含む取組みにより受賞または表彰された企業です。
それぞれの取組みについてチェックしていきましょう。
日本生活協同組合連合会のSDGs取組み事例:コープSDGs行動宣言
日本生活協同組合連合会では、2018年に「コープSDGs行動宣言」を策定・採択。同時に「日本生協連SDGs取組方針2018」を取りまとめ、多くの取組みを行っています。
そのなかで目標16に関連する取組みとして行っているのが以下の3つです。
- 平和の大切さを多くの人に伝える
- 平和を守る共同行動への参加
- 憲法を学ぶ活動
平和の大切さを伝えるための行われたのが、「原爆の日」に合わせたピース・アクションや、沖縄戦跡基地めぐりなどです。「ヒバクシャ国際署名」では、98万筆の署名を国連に提出しています。全国の生協では、平和についての学習活動が行われて7万人以上の人が参加しました。
さらに日本生活協同組合連合会は、ユニセフを通じた子ども支援・被災地支援も積極的に実施中です。
これらの取組みが評価され、日本生活協同組合連合会では第2回ジャパンSDGsアワードでSDGs副本部長を受賞しています。
平和と公正を掲げる目標16に対し、取組みづらいと感じるビジネスパーソンも多いでしょう。しかし世界平和に対して直接のアクションは難しくとも、平和の大切さを人々に伝え、共同行動に参加することは可能です。今すぐの平和実現は難しくとも、未来へとつながっていくでしょう。さらに司法へのアクセスや子どもたちを守るのも目標16の大きな課題です。「平和」という大きな課題に囚われず、企業にできることを考えていくと取組みの糸口が掴みやすくなります。
写真(Marlon Trottmann / Shutterstock.com)
参照:ジャパンSDGsアワード | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
マーケットエンタープライズのSDGs取組み事例:違法取引の減少
「持続可能な社会を実現する最適化商社」をビジョンに掲げているのが、ネット型リユース事業などを手掛けるマーケットエンタープライズです。
マーケットエンタープライズでは、捜査機関・公的機関との連携を実施して違法な取引を減少させる取組みを実施。2016~2020年の4年間で310件を超える捜査協力を行い、千葉県千葉北警察署および宮城県警察本部から感謝状を授与されています。
インターネットを悪用して行われている組織犯罪も少なくありません。違法な取引を減少させると、多くの人の利益につながるでしょう。もちろん違法取引の減少をめざせる企業には限りがあります。
しかし以下のターゲットなら、一般企業でも取組みの糸口が見つけやすいはずです。
- 子どもへの虐待・搾取・取引・暴力・拷問を撲滅する
- あらゆる形態の汚職や賄賂を大幅に減少させる
- 差別や偏見をなくす
平和へのアプローチも必要ですが、公正な社会を作る方法についても模索してみましょう。
写真(Tada Images / Shutterstock.com)
大川印刷のSDGs取組み事例:難民の雇用
2019年、大川印刷では初めて難民認定申請者の採用を行いました。
申請をしても難民の認定を受けるのは簡単ではありません。2019年には約1万人が申請していますが、認定されたのはわずか44人です。なかには10年以上も認定を待ち続ける難民も存在します。認定を受けるまで、申請者は住居や仕事でも苦労しているのが現状です。
採用者はイスラム圏の国で生まれ育ち、部族抗争によって帰国できなくなりました。
さまざまな意見があるなかでの採用でしたが、採用者は英語力が評価され、社内でもサポートが行われています。
難民受け入れは、SDGsの目標10「人と国の不平等をなくそう」目標16「平和と公平をすべての人に」などに該当する取組みです。取組みはテレビ番組でも取材を受け、大きな注目を集めました。
2021年の日本での難民認定率は0.7パーセントでした。他国から見ると、極端に少ない数字です。制度面の問題もあり、改善を求める声が上がっています。
誰一人取り残さない社会を目指すなら、難民問題も避けて通れないでしょう。自社でSDGsに取組むのなら、参考にしたい事例の1つです。多様な人材の雇用は、企業にとって大きな武器ともなります。働き手の不足が現実的に大きな問題となっているのが日本です。難民雇用は、その問題解消につながる取組みでもあります。
参照:日本の難民認定はなぜ少ないか?-制度面の課題から|難民支援協会
参照:「誰一人取り残さない」を本気でやる “難民”を雇用し新型コロナに立ち向かう中小企業 未曾有の危機に挑戦する老舗印刷会社
SDGsの目標16達成のために企業ができること
目標16のターゲットには、法の支配・透明性の高い公共機関・法的な身分証明・テロリズムの防止など、国による対策が必要なものもあります。すべての人々にとっての平和は、いまだ人類がなし得ていない大きな課題です。一個人・一企業が世界平和の実現に向けて大きな取組みをするのは難しいでしょう。
しかし個人や企業でも、平和のためにアクションをすることはできます。また暴力・搾取・DV・汚職・賄賂・差別の問題については、企業でも取組みをしていけるはずです。
目標16への取組みから直接の利益を生み出すのは難しいでしょう。しかし労働者の働きやすさにつながる取組みは可能です。
- ハラスメントの問題に取組む
- 男女差別を徹底する
- LGBTsへの偏見をなくす
目標16への取組みは、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」へとつながっていくでしょう。ハラスメントの問題に対して取組みをしていても、上辺だけの取組みになっている企業も多いものです。SDGsの目標16に絡め、今一度自社での取組みを見直してみてはいかがでしょうか。
因みにツヅケル編集部が推奨するビジネスパーソンのための「SDGsビジネスラーニング」ではこれらの内容を動画(eラーニング)で視聴することができます。月200円~/人で視聴できる企業研修。サービス開始2か月で1.6万人が受講したeラーニングを是非ご覧ください。