
人的資本は、SDGsと深い関係を持つキーワードです。これから自社でSDGsに取組むのなら、人的資本経営についての検討も必要となるでしょう。
そこで人的資本とはどのようなものなのか概要を紹介していきます。
SDGsに取組みつつ利益を拡大していくためにも、ぜひ内容をご確認ください。
【Pick Up】「ツヅケル」が注目したビジネスパーソンが人的資本を読み解くポイント
- 人的資本への投資は企業の利益につながる
- SDGsを推進するなら人的資本経営を検討してみる必要がある
人的資本とは?
「人的資本」とは、個人が持つ知識や能力などを資本として捉える、経済学での概念です。人的資本はヒューマン・キャピタル(human capital)とも表現されます。
分かりやすい人的資本の基準として使えるのが、資格や学歴などです。
人的資本の概念は、2022年現在まだ発展途上の段階にあります。そのため人的資本の定義は、国や研究者などによって違っているのが現状です。
似ているものの意味が違う言葉に「人的資源(human resource)」があります。人的資源とは、個人が持つ知識や能力によって得られる経済的な価値です。
資源は使えば消費されてしまいますが、人的資本は減らず投資の対象にも成り得るのが大きな特徴となっています。
人的資本の起源
人的資本の起源は、近代経済学の父とも呼ばれるアダム・スミスです。アダム・スミスは著書『国富論』のなかで、「人材を資本としてとらえる」と記述しました。
その記述がほかの経済学者たちによって、人的資本という概念で定義されたのです。
かつては個人が得た知識や能力だけが人的資本として考えられていました。しかし現在では、生来の能力も含めたものが人的資本だと判断される傾向にあります。
人的資本経営とは?
人的資本経営とは、言葉の通り「人的資本を生かした経営」の方法です。人的資本経営について、経済産業省では以下のように解説しています。
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
少子高齢化・働き方改革などを始め、日本の企業を取り巻く環境は大きく変化しました。「仕事があっても働き手がいない・後継者が不在で事業が存続できない」といった問題に直面している企業も増加の一途をたどっています。
そこで持続可能なビジネスに役立つのが、それぞれが持つ知識や技術を最大限に生かす人的資本経営です。持続可能なビジネスを考えるのなら、人的資本経営を推進していく必要があるでしょう。
参照:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~ (METI/経済産業省)
人的資本経営コンソーシアム
企業を中長期的に成長させるには、人材戦略の策定・実践が必要です。また持続的に企業価値を向上させるには、戦略を投資家・ステークホルダーへの説明も求められます。
そこで設立されたのが、「人的資本経営コンソーシアム」です。
人的資本経営コンソーシアム 発起人一覧
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2022年8月25日には設立総会が開催され、47社が対面で参加。そのほかの企業は、オンラインで設立総会に参加しました。
今後は以下の取組みが予定されています。
- 先進事例の共有
- 企業間協力に向けた議論
- 情報開示の検討
人的資本経営コンソーシアムは、オブザーバーとして経済産業省・金融庁も参加しています。2022年8月25日の段階で、人的資本経営コンソーシアムには計320法人が参加。設立前の申し込みについてはすでに締め切られており、追加申込みが可能になるかは未定です。現在参加している法人は経済産業省のホームページから確認できます。
参照:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~ (METI/経済産業省)
参照:人的資本経営コンソーシアム会員一覧(2022年8月25日時点)
参照:人的資本経営コンソーシアム設立総会が開催されました (METI/経済産業省)
人的資本に関する研究会について
経済産業省では、2020年1月に「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」を開催しました。研究会の内容をまとめた報告書の通称が「人材版伊藤レポート」です。「人材版伊藤レポート」は2020年9月に公表されました。公表以降、ますます人的資本の重要性が注目されています。
その状況を受け、2021年7月からも継続的に「人的資本経営の実現に向けた検討会」が開催されています。検討会の結果をまとめた報告書が「人材版伊藤レポート2.0」です。
人的資本を生かす方法は、企業の事業内容や状況により違いが出ます。そのため検討会の内容を自社でそのまま生かせるとは限りません。それでもレポートや事例集をチェックしておくと、アイデアとして役立ちます。
また経済産業省のホームページからは、過去に実施されたオンラインセミナーの動画も視聴可能です。
- 2021年3月「持続的企業価値を創造する人的資本経営」
- 2022年3月「人的資本経営という変革への道筋」
自社で人材戦略を考えるなら、ぜひチェックしておきましょう。
参照:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~ (METI/経済産業省)
人的資本経営とSDGs
人的資本経営は、SDGsとも深く関係しています。
なぜなら人的資本経営は、SDGsとも直結する以下2つとの関わりが深いためです。
それぞれの項目について、内容を紹介していきます。
ESG
そもそも人的資本が重視されるようになったきっかけが、ESG投資の広がりでした。財務情報だけでなく、環境・社会・企業投資に配慮した企業を選んで投資するのがESG投資です。
2020年には、米国証券取引委員会が人的資本の情報開示を義務化。日本でも金融商品取引法を始め、複数の法令で人的資本に関連する事項の開示が求められています。
- 女性活躍推進法
- 労働施策総合推進法
- 育児介護休業法
- 次世代育成支援対策推進法
開示の趣旨・開示義務を負う事業主などは、それぞれの法令により違います。しかし開示した内容が良いものであれば、投資家への効果的なアピールとして使えるでしょう。
参照:人的資本可視化指針 | 内閣官房
多様性
日本政府では、2022年6月に人的資本可視化の指針案を公開しました。2023年以降には、有価証券報告書に人的資本の情報開示が義務付けられる方針です。
- 男女間の給与格差
- 女性管理職比率
- 男女別育児休暇取得社員比率
- 正社員と非正規社員等の福利厚生の差
情報開示では、従業員の育成や多様性の確保なども項目に挙げられています。
日本は他国と比較すると、男女間の給与格差が大きく、女性管理職は少なめです。入社時は同じであっても、女性の昇進率は高くありません。
また男性の育児休暇取得率も低いのが日本企業の特徴です。さらに個人の多様性を公には認めていない企業も多い傾向にあります。
情報開示が義務化されると、男女格差が投資家の目に触れるのは確実です。そのため現在の状況によっては、情報開示に戸惑いを感じる企業も多いでしょう。
しかし人的資本の可視化により企業内の状況が改善されると、以下のようなSDGsの目標達成にもつながります。
SDGsに取組むなら、男女間の給与格差や女性管理職比率を変えていくのも良いでしょう。従業員の働きがいを高められると、人材確保につながります。将来的な利益を考えると、人的資本経営につながる取組みが効果的です。
SDGsに取組むのなら人的資本経営が重要
教育の意義・賃金格差を説明するにあたって使われている基本概念が、人的資本論です。現在では多くの投資家が、人的資本を重視しています。事業規模によっては、人的資本に関連する事項の開示も必要です。
短期的には利益が下がるように見えるため、かつて人的資本への投資は抑えられる傾向にありました。しかし長期的な利益拡大を考えるのであれば、人的資本に投資していくのも非常に大切です。
投資家へのアピールになるだけでなく、人的資本経営はSDGsの推進にもつながります。また企業も大きく成長させられるのが人的資本への投資です。
今後ますます働き手は減少していきます。そのなかで生き残っていくには、限られた人的資本を生かさなくてはなりません。自社の企業価値を高め、より成長させていくために、SDGsだけでなく人的資本経営についても検討してみてはいかがでしょうか。
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