
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsに対し、日本政府でも国をあげた取組みを行っています。しかし日常生活では、国がどのような取組みをしているのかについて知る機会は多くありません。
そこで本記事では、日本での国としての取組みについて概要を紹介していきます。
自社あるいは個人でSDGsを推進するうえでの参考としてお役立てください。
【Pick Up】「ツヅケル」が注目した日本のSDGs取組みについて読み解くポイント
- 達成状況は悪くないもののさらなる改善が必要
- 重点的な取組みは教育・保健・女性・防災・海洋環境の5つ
日本のSDGs実施指針における5つの主要原則
日本のSDGs実施指針における主要原則を紹介します。
SDGsでは「誰ひとり取り残さない」のが原則です。しかし国によって抱える問題は違っており、個々にあった取組みや原則が求められます。
日本では以下の5つを主要原則として定めました。
それぞれの原則について紹介しますので、内容をチェックしていきましょう。
主要原則 1.普遍性
国内実施と国際協力の両面で率先して取り組む。
主要原則の1つめは「普遍性」です。SDGsの目標を達成するためには、国内だけでなく国際間での協力も必須になります。誰ひとり取り残さない世界を実現するためには、助け合いも必要でしょう。
国内だけの課題をクリアしても、大きな成果にはつながりません。そのため政府では、主要原則として普遍性を掲げ、国内実施・国際協力を行うと明言しています。
主要原則 2.包摂性
誰一人取り残さない。国内実施、国際協力のあらゆる課題への取組において、人権の尊重とジェンダー平等の実現を目指し、子供、若者、高齢者、障害者、難民、国内避難民など、脆弱な立場におかれた人々一人一人に焦点を当てる。
包摂性では、脆弱な立場におかれた人すべてを対象とすることが目標とされています。誰ひとり取り残さない社会を実現するなら、弱い立場の人を守らなくてはなりません。
子ども・若者・高齢者など、すべての人の人権が守られ平等であるのが理想です。この原則では、ジェンダー平等の実現を目指すと明記されています。
主要原則 3.参画型
脆弱な立場におかれた人々を含む誰もが持続可能な社会の実現に貢献できるよう、あらゆるステークホルダーの参画を重視し、全員参加型で取り組む。
SDGsは国や企業だけでなく、すべての人による取組みが重要です。途上国での課題が多いと思われがちですが、日本でもSDGsと関連する多くの問題があります。例えば貧困は、途上国の問題のように思われがちですが、日本でも解決しなければいけない問題のひとつです。一人ひとりが当事者意識を持ち、SDGsを推進していく必要があるでしょう。
「自分は関係ない」と思う人が多くなってしまうと、SDGsの目標達成は遠のいてしまいます。誰もが持続可能な社会の実現に貢献できるような取組みが必要です。
主要原則 4.統合性
経済・社会・環境の三分野の全てに、複数のゴール・ターゲットの相互関連性・相乗効果を重視しつつ取り組む。
主要原則の4つめは「統合性」です。
SDGsでは、経済・社会・環境と3つの分野を関連付けた取組みが求められます。また取組みを関連付けるだけでなく、相乗効果の検討も重要です。
どれか1つの目標を達成するために他が疎かになるのでは、全体的な目標達成が遠くなります。そのため政府では統合性を主要原則の1つとして掲げているのです。
主要原則 5.透明性と説明責任
取組状況を定期的に評価し、公表・説明する。
日本のSDGsでの実施指針では、透明性と説明責任も主要原則の1つです。単に目標だけを掲げても、実施状況や目標までの課題が見えなくては、積極的な取組みが難しくなります。
そのため、政府では状況を定期的に評価・公表することを原則として掲げました。透明性・説明責任が原則に含まれることにより、実際の取組みが不透明にならないような配慮がされています。
参考:持続可能な開発目標(SDGs)推進本部|政策会議|首相官邸
日本政府によるSDGsへの取組み概要
政府はどのようにSDGsへと取組んできたのでしょうか。取組みをしているのは知っていても、達成状況までは把握していない人も多いでしょう。
そこでSDGsが国際目標として採択されてからの取組みについて、流れと達成状況を紹介します。
それぞれの状況について紹介していきますので、現状把握のために内容をご確認ください。
これまでの取組みの流れ
国連でのSDGs採択後、日本では2016年5月にSDGs推進本部を設置しました。SDGs推進本部は総理大臣を本部長、官房長官・外務大臣を副本部長とし、全閣僚が構成員となっています。
同年12月に決められたのがSDGsの主要原則を含む「SDGs実施指針」です。
さらに2017年には「ジャパンSDGsアワード」を創設。ジャパンSDGsアワードは、周囲への参考になるよう、ロールモデルとなる取組みを行う団体や企業を表彰する取組みです。
その後も政府では以下の取組みを行っています。
- 2017年12月……具体的な施策となる「SDGsアクションプラン」を発表
- 2018年6月……SDGsモデルを構築するための「SDGs未来都市」を選定
政府でも順次取組みを進めていますが、それだけでは目標を達成できません。SDGsの目標を達成するためには、国だけでなく自治体や企業、個人の参加が必要不可欠です。
参照:ジャパンSDGsアワード | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
参照:2022年の「アースオーバーシュートデー」は7月28日-累積する生態学的赤字-
日本のSDGsの達成状況
各国のSDGsの達成状況は、「Sustainable Development Report」でチェックできます。
2022年現在、日本の達成状況でのランキングは193か国中で19位です。日本が達成しているSDGsの目標は以下の3つとなります。
結果を見て納得する人も多いのではないでしょうか。義務教育があり、産業も発展している日本ならではの達成状況となっています。公正については課題が多いものの、自国が戦争状態にない日本は他国と比較すると平和です。
ただし17ある目標のうち、達成できているのはわずか3つに過ぎません。
特に、ジェンダー平等や気候変動への対策は日本にとって大きな課題です。日本のジェンダーギャップ指数は世界165カ国中116位で、先進国でも最低ランク。ジェンダー平等とは程遠いのが実態です。また産業が発展しているものの、そのぶん気候変動には悪影響を及ぼしていると言えるでしょう。
2030年までにすべての項目が達成できるよう、さらなる取組みが求められます。
参照:Sustainable Development Report
日本が重点的に行っているSDGsの取組み
日本では、SDGsを推進するために「SDGsアクションプラン」というものを掲げています。これは、2018年版をスタートとして以降毎年更新されています。
日本ではSDGsに取り組むに当たり、8つの優先課題を決めました。8つの優先課題は、2030アジェンダに掲げられている「5つのP」に対応しています。
(People) |
① あらゆる人々の活躍の推進 ② 健康・長寿の達成 |
(Prosperity) |
③ 成長市場の創出・地域活性化・科学技術イノベーション ④ 持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備 |
(Planet) |
⑤ 省エネ・再エネ、気候変動対策、循環型社会 ⑥ 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全 |
(Peace) |
⑦ 平和と安全・安心社会の実現 |
(Partnership) |
⑧ SDGs実施推進の体制と手段 |
「SDGsアクションプラン2021」では『〜コロナ禍からの「よりよい復興」と新たな時代への社会変革〜』をテーマに掲げ、以下を重点事項として掲げました。
- 感染症対策と次なる危機への備え
- よりよい復興に向けたビジネスとイノベーションを通じた成長戦略
- SDGsを原動力とした地方創生、経済と環境の好循環の創出
- 一人ひとりの可能性の発揮と絆の強化を通じた行動の加速
誰ひとり取り残さない社会を実現するための国づくり・人づくりには何があるのか、8つの重点課題を5つのPに分け、さらにくわしく見ていきましょう。
5つのP ①人間(People)
日本では、あらゆる人々の活躍の推進や健康の達成を重点課題としています。
①あらゆる人々の活躍の推進 |
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②健康・長寿の達成 |
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近年になり、働き方が大きく変わった方も多いのではないでしょうか。
「働き方改革」で行われているのが、テレワークの推進やオフィス改革です。さらに「女性の活躍推進」では、男性が家事や育児に参加できるような活動も行われてきました。特にコロナ禍では、子供や女性、障害者、高齢者など、脆弱な立場に置かれている人々が大きな影響を受けています。それに伴い、政府としては女性活躍推進に向けた取組を加速化していくことを決めました。
職種や会社規模によっては、まだ取り組みが進んでいない可能性もあるでしょう。しかし今後ますます「働き方改革」「女性の活躍推進」は広がっていく見込みです。
さらにすべての人が人間らしく活躍するには健康も大切です。そこで日本では、知識や技術を他国にも輸出しています。例えば東京栄養サミット2021を通じて、世界的な栄養改善に向けた取り組みを推進したことなどがあげられます。
5つのP ②繁栄(Prosperity)
『5つのP』2つめである「繁栄」に分類できるのが、次の取組みです。
③・成長市場の創出 ・地域活性化 ・科学技術イノベーション |
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④持続可能で強靱な国土と 質の高いインフラの整備 |
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日本は、第5期科学技術基本計画の中で、Society5.0(仮想空間と現実社会が高度に融合した社会)の実現を掲げました。これを加速させるとともに、デジタルトランスフォーメーションを推進。誰もがデジタルの恩恵を受けられる社会の実現を目指しています。また、バイオ戦略やスマート農林水産業を推進し、社会課題を解決しながら成長も叶う、持続可能な循環型社会づくりにも力を入れています。
また日本では、定期的に大きな地震や台風などによる被害が生じます。また近年では異常気象と言われるような、大雨による被害も深刻化しています。被害の甚大化を防ぐためにも、備えは必要不可欠です。そのため水道、道路、発電所等の質の高いインフラの整備に投資をしています。
5つのP ③地球(Planet)
日本の重要課題には、地球環境保護への取組みもあります。
⑤省エネ・再エネ、気候変動対策、 循環型社会 |
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⑥生物多様性、森林、海洋等の 環境の保全 |
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限りある資源を守りつつ暮らしていくには、地球全体を保護していく必要があります。1年間で人間が使う生物資源の量をエコロジカル・フットプリントで表しますが、2022年の時点で、人類は地球の生態系が再生できる量を74%超過、つまり「地球1.75個分」の生活をしていると算出されました。ちなみに世界中の人が日本人のような暮らしをすると、地球が2.9個分必要なのです。
そのために、日本では再エネ主力電源化・省エネの推進、水素社会実現の加速、バイオマス地産地消の推進などに取り組んでいます。化学物質対策は、未来を担う子どもたちの健康にもつながっていく取組みです。
海洋ゴミ対策の1つとしてプラスチック・スマートキャンペーンも進められています。普段見かけるキャンペーンも、日本の重点課題としての取組みであることが分かります。
5つのP ④平和(Peace)
平和についての取組みは、国内・国外に分けることが可能です。
⑦平和と安全・安心社会の実現 |
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日本は世界的に見ると『安全な国』の1つです。しかし外からは分かりにくいものの、子どもや女性に対する暴力や虐待は存在します。誰もが安心して暮らせる社会の実現には、適切な法整備が必要です。
また世界を見てみると、現在も戦争・紛争・暴力で苦しむ人が大勢います。その状況を他人事として考えず、身近な問題として解決を目指さなくてはなりません。
国外での代表的な平和への取組みには「平和のための能力構築」「中東和平への貢献」が挙げられます。平和のための能力構築では、途上国に対する継続的な人材育成や技術支援などを実施。自衛隊の能力を生かし、地域の平和と安定につながる活動が進められています。
5つのP ⑤パートナーシップ(Partnership)
SDGsの目標17に該当するパートナーシップに分類できるのが、「SDGs実施推進の体制と手段」です。
⑧SDGs実施推進の体制と手段 |
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「広報や啓発の推進」の一環として行われているのが、ジャパンSDGsアワードです。
ジャパンSDGsアワードでは、SDGs達成に向け優れた取組みを行っている企業・団体の表彰が行われています。ロールモデルとなる事例も多いため、受賞した企業を参考に自社での取組みを考える企業も多いはずです。
国や企業の取組みだけではSDGsの目標達成は難しいもの。家庭や個人でも、持続可能な社会を目指した行動が必要です。そこで今後も、国による効果的な広報や啓発の推進が求められます。
参照:ジャパンSDGsアワード | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
多岐にわたる目標達成のための日本の取組み
SDGsの採択以降、目標達成のために日本政府は多くの戦略を発表し取組みを始めました。その内容は多岐にわたります。
3項目は達成していますが、それはもともと日本の強みでもあった部分です。そのため新たな取組みの成果が出ていると考えるのは難しいでしょう。すべての目標を達成するには、今後さらなる取組みが求められます。
自国の目標達成だけを目指すのがSDGsではありません。国内外にあるさまざまな課題を解決していく必要があります。しかし政府だけのフォローでは難しい要素もあるでしょう。
国による取組みも重要ですが、SDGsでは個々の活動も重要です。政府の取組みを踏まえ、企業や個人で何ができるのか、考えていく必要があります。
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